相模原市緑区出身の榎本瞳さん(29)=千葉県成田市=は戦禍を語り継ぐバトンを受け取ろうと決めた。戦争体験者が減りゆく中、「語れる人が少なくなれば平和への願いも薄れてしまう」。東京都国立市が始めた「くにたち原爆体験伝承者育成プロジェクト」に参加し、試行錯誤から見えてきたキーワードは「具体性」「実感」。それはまた、戦後70年、語られてきた平和の具体性、実感のなさの裏返しではないのか。講話は静かに問う。私たちはどれだけ戦争を知っているでしょうか。
70年前のあの日、見上げた空はどう映ったのだろう。色は、音は、痛みは、そして心はどう動いたのか。五感に働き掛ける言葉を選びながら、推敲(すいこう)を重ねていった。
〈七色の強い光が目の前を覆い、直後に物凄(ものすご)い爆風に襲われた桂さんは、中町天主堂の塀に激しくたたきつけられ、塀の下にある道路の横の溝に落ち、衝撃で意識を失ってしまったのです〉
10月24日、東京都国立市内で行われた伝承者育成プロジェクトの講話の演習。緊張の面持ちながら、原稿を読み上げる柔らかな語り口に榎本さんの人柄がにじんだ。