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時代の正体〈431〉自由と規制は両立 条例はなぜ必要か(中)

社会 | 神奈川新聞 | 2017年1月8日(日) 10:30

報告した提言について語る阿部浩己会長(右)と中野裕二部会長=川崎市役所
報告した提言について語る阿部浩己会長(右)と中野裕二部会長=川崎市役所

【時代の正体取材班=石橋 学】川崎市人権施策推進協議会が昨年12月27日に福田紀彦市長に提言したヘイトスピーチ対策は、事前規制が自治体の施策として実施可能だと示した点で意義深い。記者会見した会長の阿部浩己神奈川大法科大学院教授、専門部会長の中野裕二駒沢大教授はそれぞれ、事前規制のためのガイドラインはなぜ成り立ち得るのか、なぜ条例が必要なのかについて語った。

◆川崎市人権施策推進協議会会長 阿部 浩己さん
 ヘイトスピーチは被害が甚大で、事後的に対処すればいいという類いのものではまったくない。

 表現の自由との兼ね合いで重要な問題をはらんでいるが、福田市長がヘイトデモ主催者に公園利用を不許可にしている実績がある。司法判断も積み重なっている。12月に大阪地裁でヘイトデモを禁じる仮処分が出たが、その半年前に横浜地裁川崎支部は前述の男性にデモ禁止の仮処分を出した。憲法上もヘイトスピーチは表現の自由によって保護される範疇(はんちゅう)を超えている、表現の自由を逸脱しているという認識が固まってきている。

 同時に人種差別撤廃条約など国際社会の中心的な人権条約において、ヘイトスピーチは規制しなければならないとされている。条約に加入している日本はこれを義務として引き受けている。今日、ヘイトスピーチは規制の対象であるとはっきり言ってよいと思う。

 問題はどこで線を引けるかだ。恣意(しい)的な判断がなされると表現の自由が侵される危険性がある。だから明確な文言でガイドラインを作る。公正な運用を担保するため第三者機関を設ける。そうすれば表現の自由を守ることとヘイトスピーチを規制することは両立できる。報告書ではそこを強調した。

 規制するのは「不当な差別的言動が行われるおそれが客観的な事実に照らして具体的に認められる場合」で、慎重に運用しなければならないとも書いた。この基準に沿えば、事前規制の難しさはクリアできると考える。公的施設の利用は原則、権利として認められるべきだ。しかし、ヘイトスピーチが行われると分かった段階で行政機関として必要な措置を取るべきだ。

 そもそも「事前」とは何か。ヘイトスピーチの規制はまったく何も起きていない段階で行うものではない。ヘイトデモは開催前に告知することですでに被害が生じる。それはもはや事前ではない。

 ガイドラインだけでなく条例により対処していくのが基本スタンス。条例は明確な法的基礎となり、市長が代わっても効力を持つ。

 ヘイトスピーチ解消法も地域の実情に応じた施策の実施を求めている。川崎市ではヘイトデモが断続的に繰り広げられてきた。その実情に応じた条例を制定し、対処するのが本来の筋だ。今回は審議時間が限られる中、既存の条例の解釈指針という暫定的な形での対処を提言した。だからガイドラインはヘイトスピーチ対策の終わりではなく、始まりだ。

 川崎市の人権擁護行政は先端的なものとして積み重ねられ、ほかの自治体の施策にも影響を与えてきた。ヘイトデモが繰り返され、公園利用不許可の判断を下した川崎市がいま踏み込んだ対策を取らなければ、逆にほかの自治体に別の形で影響が出てくる。

 川崎市だけの問題だとは思っていない。地域、自治体から全体の水準を上げていく。そうした考えの下にまず一歩踏み出す。それは本来、ヘイトスピーチ解消法で求められているし、国際人権条約からも要請されている。特異なことではなく、むしろ川崎市に求められていることだ。



◆同会専門部会長 中野 裕二さん
 法的根拠 早期に
 ヘイトスピーチの事前規制は最終的には条例に基づいて行うべきだ。公園や市民館の利用を不許可にする。つまり市民の行動を制限する。そうしたものが条例の解釈指針、いわゆるガイドラインだけでやってよいのか。一定の法体系に基づいてなされないと大きな人権侵害につながる可能性がある。

 都市公園条例、市民館条例を個別に改正するのか。基本条例で包括的に規制するのか。いずれも少し時間がかかる。暫定的な措置としてガイドラインがある。作って終わりでは決してない。最終目標はできるだけ早く条例を作ること。ガイドラインはその条例の中に盛り込む形を想定している。

 20年前に始まった外国人市民代表者会議など、川崎市は多文化共生社会の実現に向けた施策を積み重ねてきた。それでもヘイトデモが繰り返される事態になった。踏み込んだ対応が必要ではないかと審議してきたのはそのためだ。部会としてはさらに施策の体系化を含めて議論していく。

ガイドラインを巡る審議の経過


 ガイドラインのあり方については「多文化共生社会推進指針に関する部会」で集中的に審議され、昨年10月にはヘイトスピーチ問題の第一人者、師岡康子弁護士と規制に消極的な立場の憲法学者、榎透専修大教授をそろって招いてヒアリングを実施した。

 師岡弁護士はヘイトスピーチ目的の個人・団体に公的施設を貸し出せば差別に加担することになり、差別を禁止し、終了させる義務を締約国に課す人種差別撤廃条約に違反すると指摘。自治体には、表現の自由を守る義務と同時にマイノリティーの人権を守る義務があるとし、回復困難な被害を当事者に与えるヘイトスピーチの事前規制の必要性を主張した。

 厳格な基準と手続きを定め、限定的に運用すれば表現の自由の侵害と恣意(しい)的乱用の恐れは排除できることを示す師岡弁護士に対し、事前規制の困難さ、危うさを指摘した榎教授も最終的には違憲とは言えないことを認め、包括的な人権条例の制定について規制の根拠をより明確にする上で「一つの方策だ」との見解を示すに至った。

報告書で示された協議会の意見



・公的施設の利用については、憲法および地方自治法の観点から許可を原則としなければならない。
・しかし、「不当な差別的言動が行われるおそれが客観的な事実に照らして具体的に認められる場合」については、客観的な基準が必要であり、ガイドラインを速やかに策定する必要がある。

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