
横浜市都筑区のマンション傾斜問題で、事業主の三井不動産レジデンシャルは27日、全棟全住戸の建て替えを基本的枠組みとした具体的な補償案を住民側に文書で提示した。転出を希望する世帯には建て替え後の分譲想定価格で買い取る一方、建て替え後に再び入居を希望する世帯には仮住まい中の家賃、引っ越し代などを同社が負担する。施工不良に伴う慰謝料も支払うとしている。
同社が住民に配布した資料は計7枚。資料によると、建て替えに伴い、転居する場合には不動産鑑定士の鑑定評価による新築分譲想定価格で買い取ると明記。仮に住民の判断で建て替えを実施しなくても転出する場合は買い取る。
一方、再入居を希望する場合は、解体工事から建て替え工事が完了するまでの間、周辺のマンションなどに引っ越す必要があるとして、仮住まい期間中の家賃、敷金・礼金・更新料、仲介手数料、火災保険、引っ越し代、勤務先や学校までの交通費の差額などを同社が負担する。仮住まいについても「可能な限り紹介する」とした。建て替え後は現在と同じ住戸に入居できるという。
現在住戸を賃貸している場合は、賃借人の転出による賃料損失分を同社が負担する。
また、データの改ざんに伴う地盤調査などで全4棟の構造安全性の検証が終わるまでの間、ホテルなどで一時待避する場合も費用を支払う。建て替えの検討と並行して、施工不良が発覚したくいの補修工事なども提案する。
同社は31日と11月1日に市内で住民説明会を開き、提示した内容について協議する。
◆費用、合意形成に不安住民
27日午後7時半ごろ。各住戸の照明がともったマンションに、文書が入った紙袋を提げたスーツ姿の関係者が入った。50代の住民男性はすぐに内容を確認し、「誠実に対応しようとしている」と一定の評価を口にしたが、不安は募る。「建て替えは時間がかかるし、ハードルが高い」
三井不動産レジデンシャルが基本線とする建て替えには住民の合意形成が必要で、まとまるかは不透明だ。建物が傾斜しているのは4棟のうちの西棟だけで、男性は「いつ巨大地震が来るか分からない。まずは西棟だけを建て替える方法もある」と指摘する。
また、工事完了後にも不安を抱く。建て替え後に再入居を希望しているが、「今後の協議で住民の利害が一致せず、禍根を残してしまうかもしれない。住民側も過度な請求は控え、冷静に対応する必要があると思う」と話す。
「利便性が良く、緑がある。老後にゆっくり過ごすのにいい環境」というのが購入の決め手だっただけに、説明会の場で納得いくまで同社の責任や今後の対応を追及するつもりだ。
◆同種くい使用、横浜で1件、横須賀3件
横浜市都筑区のマンション傾斜問題で、市は27日、過去5年間で旭化成建材がくい打ち工事を行った公共施設のうち1カ所で、問題のマンションと同種のくいを使用していたと明らかにした。市はこれまでの調査の結果、建物の安全性に問題はないとしている。
横須賀市も同日、過去10年間に公共施設3件で同様の施工実績があったことを明らかにした。
また、横浜市都筑区のマンションで19日から行われていた西棟の地盤調査について、市は27日、施工主の三井住友建設から、同日中に作業を終えたと報告を受けたことも明らかにした。結果報告の時期は未定としている。