
横浜市都筑区のマンション傾斜問題で、旭化成は子会社の「旭化成建材」(東京)が過去約10年間にくい打ちを請け負った全国3千棟のうち、データを改ざんしたとされる男性担当者が関与した物件を、優先して調べる方針であることが17日、分かった。3千棟に関する詳しい調査は、外部の専門家でつくる第三者機関へ委託することも検討する。
居住者や物件利用者らの不安が大きいことから、懸念が強い物件から調べる姿勢を示すとともに、調査の公正性を担保する方法を決める。第三者機関に委ねた場合、全容解明に時間がかかる懸念もある。全国3千棟について、都道府県別の、商業施設や病院といった施設ごとの件数などの詳細情報は、早ければ19日の週にも公表する意向だ。旭化成建材が各地に保有するデータを早急に集め発表する。
一方、データを改ざんしたとされる男性担当者が理由を「データを記録する機械のスイッチを入れ忘れた」と話していると、旭化成建材の前田富弘社長が16日の住民説明会後、明らかにした。前田社長は、施工主の三井住友建設に毎日提出すべきデータの紛失もあったと説明し「データ管理に非常に不備があった。反省している」と述べた。
旭化成などによると、改ざんが確認されたくいは計70本。くいを打つ穴が強固な地盤まで達したかを電流の抵抗で測る波形データの改ざんが38本分、くいの先端部を覆って固める部分に注入するセメント液の量を確認する流量計データの改ざんが45本分で、13本は不正が重複していた。
男性のキャリアは約15年。前田社長の説明では、聞き取り調査に男性はデータの取り忘れもあったと説明。インフルエンザで休み、2日間データを取らなかったこともあった。
◆安全性、補償…住民不安
「家族には、不安で気分が悪く、マンションにいたくないという思いすら生まれている」
傾斜問題が明るみに出た横浜市都筑区のマンションで、17日未明まで続いた住民説明会。9日から繰り返し開かれてきた説明会の最終日に新たなデータ改ざんが判明し、住民の動揺が広がった。安全性は大丈夫なのか、補償の行方は-。全棟建て替え案も合意形成のハードルは高く、住民にとって安眠できぬ日々が続きそうだ。
16日午後7時に始まった説明会。会社側が明らかにしたのは、工事のデータ改ざんやセメント量のデータ偽装が確認されたくいが、傾いた西棟を含む3棟の計70本に上るとの内容だった。前日の説明会で全4棟の建て替え案が示された直後の新事実発覚に、住民は「他にもまだあるのではないか」「納得いかない」と不信感を増幅させる。
全棟建て替えや部屋の買い取りといった補償内容にも、困惑が広がる。建て替えには、区分所有者の5分の4以上の合意が必要で、住民の50代男性は「700戸もあり、すぐに話がまとまるわけがない」と話し、今後の対応策が不透明な中で「現実的ではない」との見方を示す。
旭化成建材の前田富弘社長は16日深夜、報道陣の取材に「住民の皆さまに多大な迷惑をおかけし、誠に申し訳ない。施工不良とデータ改ざんを大変重く受け止めている」と謝罪。17日午前2時すぎに会場を後にした三井不動産レジデンシャルの藤林清隆社長は、「誠心誠意ご説明させていただいた。お客さまの安心安全の確保を第一に、今後も対応を進めていきたい」と述べ、車に乗り込んだ。