機会は唐突に訪れた。
ガサガサッと枯れ草を踏む音がしたと思ったら、目の前を1頭のシカが駆け抜けていった。追う猟犬。身を潜めていた獣道の木陰から銃口を向け、引き金を引いた。
耳をつんざく銃声。何も起こらない。もう1発、さらにもう1発。やはり命中せず、シカはあっという間に姿が見えなくなった。
静寂が戻った山中で自分の鼓動だけがやけに脈打って感じられた。
平山庸子さん(36)=横浜市旭区=が苦笑交じりに振り返る。
「猟場でシカを見たのも初めてであたふたしちゃった。生き物を自分の手で殺(あや)めることはもちろん、銃を撃つこと自体、怖かった」
昨年11月、秦野・蓑毛山で知った猟の難しさ。以来、平山さんは南足柄など県西部の山々に10回以上向かうが、獲物を仕留めたことはまだ一度もない。