厚木市のアパートの一室で昨年5月、男児=当時(5)=の遺体が死後7年以上たって見つかった事件で、殺人などの罪に問われた父親(37)の裁判員裁判の論告求刑公判が8日、横浜地裁(伊名波宏仁裁判長)であった。検察側は「被害児童に長期間の苦痛を与えたもので、あまりに残酷」として、懲役20年を求刑。保護責任者遺棄致死罪にとどまると主張している弁護側は、情状酌量を求めた。判決は22日。
被告が、死亡する可能性が高いことを分かっていながら、男児を放置したかという「未必の故意」による殺意の有無が争点。
検察側は論告で、被告は死亡推定時期の約1カ月前に、食事を与える回数を減らしたことで被害児童に異常があったと認識していたとし、「死に至る危険があることを分かっていながら、適切な措置を講じなかった」と指摘、殺意の成立を主張した。その上で、「真っ暗な室内に閉じ込められた被害児童は、恐怖や怒り、悲しみを抱くことを繰り返していた。親としての自覚が欠けた無責任な犯行だ」と指弾した。
弁護側は弁論で、被告は当時の状況について「覚えていない」と指摘。「被告なりに育児をしているつもりだった」と殺意を否認した。また、事件の背景には被告の妻で男児の母親が突然家を出たことや、児童相談所など行政機関の対応の不備などがあり、被告に全責任を負わせるのは酷だと強調した。
被告はダークグレーのスーツ姿で入廷。読み上げ中は膝の上で両手を組み、うつむいたまま聴き入った。求刑後の最終意見陳述で、被告は少しくぐもった声で「男児には本当に申し訳ない気持ちでいっぱい。それしか言いようがありません」と話した。
起訴状によると、被告は2004年10月ごろから、厚木市内のアパートで男児と2人で生活。育児をするのは被告しかいないのに、06年11月下旬ごろからアパート内の6畳和室に閉じ込めてわずかな食事や水しか与えずに放置し、07年1月中旬ごろに栄養失調で死亡させた、などとされる。
事件をめぐっては、男児がおむつ姿で路上で保護された際に厚木児童相談所は「迷子」として受理。厚木市は3歳半健診の未受診や小学校に入学していないことを把握していながら、児相など関係機関との情報共有が図られていなかった。所在不明児童の問題が注目されるきっかけにもなった。