反対世論を押し切り成立をみた安全保障関連法が9月30日に公布され、来年3月までに施行される。参院特別委員会で強行された採決の場面が記憶に新しいが、そこに至る過程でも重大な瑕疵(かし)があった。横浜市内で開かれた地方公聴会の報告がなされておらず、正しい手続きは無視された。公述人を務めた水上貴央弁護士(39)は実感を込める。「国権の最高機関たる国会への信頼、三権分立の原則、民主主義のありようという、この国の根幹が揺らいでいる」
9月17日、参院特別委で採決は強行された。怒号が飛び交う中、打ち合わせ通り体を張る与党議員の壁に守られ、鴻池祥肇委員長(自民党)は議事を進めていった。
「ああいう形での採決は不本意だが、審議はほぼ尽くされたと感じた。参院として結論を出す時期だと感じた」
そう振り返った鴻池委員長の弁から、やましさは少しも伝わってこなかった。前言はたやすく覆された。あるいは、はなからそのつもりだったか。
前日の16日、地方公聴会の会場となった新横浜プリンスホテル4階の会議場。4人の公述人で最後の発言者となった水上弁護士は鴻池委員長を正面に見据え、切り出した。
「公聴会が採決のための単なるセレモニーにすぎない茶番なら、申し上げるべき意見を私は持ち合わせていません。委員長、この公聴会は慎重で十分な審議のためのものか、採決のための単なるセレモニーか」
不意に詰め寄られ、鴻池委員長は動揺を悟られまいとするかのように気色ばんだ。