
横須賀市の中心として栄える京急線横須賀中央駅を降りると、「ドル街横須賀」と記された横断幕が目に入ってくる。駅前大通りを抜ければ、そこにフェンス越しの米海軍基地が広がる-。
市と横須賀集客促進実行委員会は「観光客を呼び込むきっかけづくり」として、2013年に基地周辺の店で米ドル紙幣を使って飲食や買い物を楽しめる期間限定のキャンペーンを開始。反響を得て、今年は通年で行っている。
「基地の街」をイメージしたネイビーバーガーや海軍カレーなども人気で、米軍基地開放イベント「ネイビーフレンドシップデー」は毎年4万人以上の人出でにぎわう。同様の交流行事は海上自衛隊も積極的だ。
さらに、米海軍と海自艦船などを船上から見学できる「YOKOSUKA軍港めぐり」には多くの市外観光客が訪れ、今や観光業をけん引している。

こうした地域のトレンドについて、社会学専門で若者文化にも詳しい横浜市大名誉教授の中西新太郎さんは懸念を抱く。「基地文化、軍事文化、戦争文化と言えばいいのか、人口減少の激しい横須賀が、基地に付随するさまざまな要素で町おこししたいというのは分かる。だが、本当にそれで良いのか」
中西さんは同じく基地のある沖縄県を例に挙げる。沖縄市の嘉手納基地前にはバーや飲食店が並ぶ歓楽街が広がり、第2次大戦後は多くの米軍人らでにぎわったが、今はシャッターを下ろす店も目立つという。
「現代は人員をかけないサイバーシステムのオペレーションで戦争を行う。軍人が減り、基地に頼ってきたものが期待できなくなってきている」。米軍再編など時の情勢に左右されやすく、景気の見通しの立てづらい「基地経済」への依存は行き詰まる。
仮に米軍関係者による事件・事故が起きれば、たちまち人の波は引く。沖縄市の現状は横須賀にとって示唆的という。
横須賀市は昨年12月、観光を新たな基幹産業に育てる狙いで観光立市推進条例を成立し、基本計画の策定に取り組んでいる。その一環で、多業種の事業者の「生の声」を反映させるために、市内外の146社・団体を対象にインタビューを実施した。意見の中には「米海軍基地の活用」と題し、「米国に旅行等で行く前に国内で米国を体験できる街として売り出す」「米海軍基地居住者をインバウンド(訪日外国人)として捉えた観光施策を実施する」といった声もあった。
吉田雄人市長は9月9日の定例会見で「米海軍基地を観光資源と呼ぶのは抵抗あるが、一つの都市資源としてどう生かしていくか。観光面だけでなく、海上自衛隊、米海軍の立地による経済的な波及効果はあると認識している」と述べた。
原子力空母ロナルド・レーガンが間もなく入港する。イージス艦も追加配備されるため、市内は当面、米軍関係者が増える。すでに基地周辺の飲食店経営者らは「客が増える。早く来てほしい」と期待を膨らませている。
市民と軍の縮まる距離。中西さんは「米軍にとって反米感情が高まるのは避けたい。地域社会に溶け込むためにも基地文化の広がりは有効な手段だ」と指摘、友好な関係づくりは米軍の活動に欠かせないとみる。
しかし、一方でこうも危惧する。「一般市民が軍事というものに慣れ親しんでしまうのでは」
=おわり