
県内自治体の間で人口の増減傾向が二分化するなか、自治体間で定住者や納税を取り合う構図が生じてきた。人口減に直面する自治体は、定住地としてのプロモーションを他地域に向けて注力する。一方、ふるさと納税に伴う控除の増えた都市部では減収に直面している。
海老名市の内野優市長は昨年、職員の持ってきた冊子スタイルのパンフレットに目をむいた。
「海を感じる、日常へ」-。横須賀への移住を促す内容。若い居住者が多い賃貸住宅に配られたという。町の魅力や行政の育児支援策などが紹介されている。洗練されたデザイン。海岸の写真も美しい。
出来栄えに舌を巻いた内野市長だったが、市民の“引き抜き”を企図されたようにも映った。「こっちも作って、横須賀で配ってやろうか」。後日出会った横須賀市の吉田雄人市長に、思わず苦言を呈したという。
1日の横須賀市議会定例会本会議。吉田市長は冊子配布の意図を「知られていない横須賀の魅力を伝えるため。やり過ぎという認識はない」と説明した。

だが同市は一方で、県央部に狙いをつけ、駅などで街を宣伝する方針は隠していない。「横浜駅までの利便性があまり変わらないものの、横須賀と比べて地価が高く、海がない」とみるからだ。背景には育児世代を中心とする人口流出への強い危機感がある。2月発表の国勢調査(昨年10月時点)で横須賀市は、前回調査からの人口減少数が、県内市町村で最多だった。
同じ調査で人口の減少率のトップだったのは、15・4%減の箱根町。箱根山・大涌谷周辺の火山活動による観光産業の低迷が響く。自治体に寄付すると居住地への納税額が減免されるふるさと納税が、箱根町では2015年度、5億円に達した。

「(応援の)メッセージ付きのものもあった。感謝の一言」。山口昇士町長は会見で謝意をみせた。
町はふるさと納税分の収入として16年度予算案にも2億5千万円を計上。もっとも「依存財源なので半分ぐらいに見込まなければ危険だろう」(町総務部)との皮算用で、見込み額に根拠があるわけではない。
一方の都市部では、住民の他の自治体への寄付に伴う控除額が、軽視できない規模に