「自治会の要望を昨年、鳥屋地域振興協議会を窓口にJR(東海)などに提出したが、現時点で進展はない」
リニア中央新幹線の関東車両基地が造られる相模原市内の山間部・鳥屋地域(同市緑区鳥屋)。串川沿いの緩やかな傾斜地などに11の集落が点在、そのほぼ中央部に位置する谷戸(やと)地区は車両基地建設で最も影響を受ける。4月から谷戸自治会長を務める山本利久さん(60)は地区の現状について冒頭のように語る。
計画では、車両基地は縦長に約50ヘクタールと巨大だ。環境影響評価書の手続きの際、JR東海は「生活圏や地域文化への影響を最小限にしていくよう努める」とし、小中学校は計画区域から外れた。しかし谷戸地区は中央部で車両基地に集落を分断される。
同地区の世帯数は50戸弱。現状のままでは約3分の1が計画区域にかかり、移転を余儀なくされる可能性がある。残った世帯も地域コミュニティーの再構築を迫られる。
鳥屋地域振興協議会は昨年9月、JR東海と県知事、相模原市長宛てに要望書を提出。「車両基地の建設は地域のコミュニティー全体への影響が懸念される。基本的には反対」と表明した。その上で移転者の生活再建への配慮や、回送線などを生かした地域振興策などを要求している。
地域分断の課題を抱える谷戸自治会は、アンケートなどで住民の意向を取りまとめてきた。最多は「地域コミュニティーの維持」だった。「環境が変わる不安は大きい。現在と同じような生活が営めるよう配慮してもらわなければ」と山本会長は語気を強める。
こうした課題にJR東海は、分断される地区を走る県道を全長約220メートルのトンネルで車両基地をくぐらせ、集落を結ぶことで影響の低減を図る。住宅の移転問題には「地権者の意向をうかがい、自治会の方と相談しながら検討したい」としている。
車両基地は、最大17メートルの擁壁の上に高くそびえることになる。「山が一つできる」と表現した70代の男性は、同地区に住んで約50年。移転対象にあるのを図面で確かめ、「どうにもならない」と受け入れる。ただ「代替地は提供してほしいが、地区がバラバラになったら困る」と条件を付けた。
移転が確実な60代男性は自営業。約30年間、地域密着で仕事に励んできた。「移転したくないのが本音。それでも移転というなら、地域とつながりのある近くに集団移転するしかない」