県内在住の作家中脇初枝さん(41)が戦後70年の節目に描いたのは横浜大空襲を生き延びた少女たちの物語だった。「世界の果てのこどもたち」(講談社)は戦争経験者50人以上から聞き取り、その言葉を基に戦中・戦後の横浜を舞台の中心に据えた。児童虐待や貧困など現代の家族が抱える問題をテーマにしてきた中脇さんが、なぜ暗い過去と向き合ったのか。
「私たちがいる伊勢佐木町一帯は焼け野原になり、多くの人が亡くなりました。想像がつきますか」
出版を記念し、横浜市中区伊勢佐木町の書店で7月に開かれたトークイベント。話が横浜大空襲に及ぶと中脇さんの言葉は熱を帯びた。
集まった聴衆は中脇さんより若い世代が多い。講演の最後をこう結んだ。
「70年前を知る人々の言葉が誰にも知られないまま、失われようとしている。これらの言葉を伝えるべきだと思い、その思いを作品に込めました」
物語は旧満州(中国東北部)・吉林省の開拓団集落から始まる。1944年夏、国民学校初等科1年生の3人が出会い、仲良くなる。
高知の山村から開拓団として家族とやって来た珠子(たまこ)と、日本の植民地支配下にあった朝鮮半島で農地を奪われ、満州開拓に行かざるを得なかった朝鮮人の美子(ミジャ)、そして、横浜の恵まれた家庭で育ち、父と旅行でやってきた茉莉(まり)。
その後、珠子は中国残留孤児となり、茉莉は横浜大空襲で家族を失い、日本に渡った美子は在日朝鮮人として差別を受ける。