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東海大・水島ゼミ 体験者から聞き取り
時代の正体〈165〉戦争の語り継ぎ断絶 

社会 | 神奈川新聞 | 2015年8月13日(木) 09:20


伊勢原市内の戦争体験者にインタビューをする東海大・水島ゼミの学生 =伊勢原市役所
伊勢原市内の戦争体験者にインタビューをする東海大・水島ゼミの学生 =伊勢原市役所

 メディア論が専門の東海大の水島久光教授(53)のゼミが今年、戦争体験者から聞き取りを行った。伊勢原市の戦後70年の事業に共同で取り組んだもの。そこから見えてきたのは「語る側」と「聞く側」の埋めがたいギャップ、そして戦争を特攻、空襲、原爆といった「一瞬の出来事」として切り取ってきた話法の限界だった。

 10日夜、横浜市中区で開かれたトークイベント。水島教授が引き合いに出したのは、米軍施設という形で横浜に残る接収地の存在だった。

 「自分たちの町が米軍に接収されているという日常の中で、果たして横浜は終戦を迎えたといえるのだろうか。つまり、1945年8月15日は一つの記号にすぎない。戦争を真正面から検証してこなかった日本はいまも終戦したとはいえないと考えている」

 毎夏語られる特攻隊員の悲劇、原爆に焼かれた広島・長崎の惨劇、8・15で区切られる戦中と戦後。「固定化された紋切り型の話法で戦争の実相をどれだけ伝えられているだろうか」。伝え方の問題という根本的な疑問が研究の出発点となった。

 

「一瞬の出来事」

 東海大・水島ゼミの学生がインタビューしたのは元特攻隊員や通信兵、疎開先となった当時の伊勢原市の様子を知る女性など6人。教授の指導の下、学生が質問を考え、カメラを回し、映像を編集した。

 水島教授は学生の「子どもっぽい質問」や「無知」に期待していたという。協力者に最大限の敬意と感謝を表しつつ、その意図を明かす。

 「戦争を語ってきた人ほど伝えたいこと、語ることが固定化されていて、物語の『型』を持っている場合が多い。学生がぶつける素朴で時に幼稚な質問によってこそ語られてこなかった部分が掘り出される。戦争体験の真実とは、大体、そういう部分にあるものだからだ」

 戦争がどう語り継がれているか、水島教授が本格的に研究を始めたのは10年前の「戦後60年」がきっかけだった。テレビの戦争特集の番組を録画し、目を通した。そこで気付いた。

 「語られるもののほとんどが空襲や原爆、特攻などの『一瞬の出来事』。果たして、それが戦争のすべてだろうか。戦災は日常の先にあったはずなのに、非日常の『点』としてばかり語ってきたのが、戦後日本のやり方だった」

 固定化された紋切り型の姿勢は、教育も同じだった。悲劇的な「点」としての戦渦を伝え、戦争は繰り返してはならないと結ぶ。そうした「教科書的な定型フォーマット」が、聞く側と戦争の実相との距離を遠く隔てていったと考える。

 

語られた個人史

 インタビューに臨む学生にはもちろん入念な準備をさせた。「それでも語り手の言葉の半分も理解できていない学生がほとんどだったでしょうね」。戦時中の事象を時間の連続性の中で捉えられないため、「満州」という言葉一つとっても、どのような文脈で語られているのか頭の中で位置付けられないという断絶。

 背景として、戦争が「個人の話法」「個人史」としてばかり語られてきたことを挙げる。「日本で戦争が『個人の話法』を脱して語られ始めたのはこの20年にすぎない。つまり、米国の公文書館(国立公文書記録管理局)が戦時中の日本に関する資料を公開し始めるようになってからだ」

 具体的な証拠から戦争の全体像に迫り、検証していく。その積み重ねで日本が踏み誤っていった構造をひもといていく。必要なのは、戦争責任にも通じるそうした作業ではなかったか。米国公文書館所蔵の資料から原爆の目標都市の決定理由や戦後の沖縄返還協定の密約の存在などが明らかになったのも2000年以降のことだ。

 「戦争はある日突然始まったわけではない。社会をどのような空気が包み、どういう精神構造で人々が戦争へ加担していったのか。それを明らかにし、伝え残そうとする努力を決定的に欠いていた」

 その責任を水島教授は「明らかに私を含めた今の50代、60代のせいだ」と語る。「戦後生まれの世代だが、親は戦争を体験していて、町には傷痍(しょうい)軍人がいて、身近なところに戦争の跡があった。だが、経済成長に突き進む中で過去を振り返ることをしてこなかった。今の若い世代の無知は、われわれの怠慢によるところが大きい」


横浜市中区で開催された「70年目の夏 市民が語り継ぐ戦争体験を読む」で講師を務めた水島教授 =10日
横浜市中区で開催された「70年目の夏 市民が語り継ぐ戦争体験を読む」で講師を務めた水島教授 =10日

 

歴史化への抵抗

 現在に目を移せば、政権の座にあるのは戦後世代、60歳の安倍晋三首相。安倍政権はこの夏、侵略戦争の反省に立った専守防衛という戦後日本の基本方針を大転換させる安全保障関連法制の整備を目指す。法律が成立すれば集団的自衛権の行使が可能となり、海外での武力行使に道が開ける。

 水島教授は「そうした政治姿勢やそれを許容する空気も、戦争を知る世代との断絶があるからこそ。時代を大きな連続性で捉えれば、今は明らかに戦前といえる」と警鐘を鳴らす。

 10年後の戦後80年には、戦争体験者はますます減り、語り継ぐことはより困難となっていく。ゼミ生としてインタビューを行った4年の真仲大輝さん(21)は、自分に芽生えた「違和感」を大事にしたいという。

 「安全保障関連法案に対して反対と言っている若者が、言ったそばからゲームなどで戦争を扱うものを楽しんだりする。その違和感に向き合いたい。葛藤を持つことは、考え続けること。そこを出発点に対話をすることが大事だと思う」

 水島教授によると、戦後70年の今夏は10年前よりテレビの戦争特集が多くみられ、内容も踏み込んだものになっているという。

 やはり問題意識の結果として希望を示す。

 「現在の情勢や紋切り型の戦争の伝え方に危機感を持ち、変えようとしている人たちもいる。『あの戦争』という言葉が通じなくなる、戦争が現代と断絶した過去として語られる『歴史化』への抵抗を続けなければならない」

 水島ゼミがまとめた映像ライブラリーは23日に伊勢原市民文化会館で行われる「平和のつどい」で発表される。市ホームページでも公開される。

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