戦後70年間を生き抜いた半生の中で、帰郷する気は起きてこなかった。もう知人もいないだろうから、とも思っていた。
だが節目の年に考えを変えた。「90歳まで生きてこられたのは『(故郷に)行ってこい』という意味だったのかもしれない」
5月に中川タマ(90)=茅ケ崎市=が再訪した広島の町並みは、大きく変わっていた。1945年8月6日の朝を迎えた広島沖の金輪島を訪ねたが、防空壕(ごう)の穴はふさがれていた。
あの夏が呼び覚まされたのは、広島湾に面したまち、小屋浦。14歳の弟を失った地だ。
慰霊碑の前に立った。傍らには自身の…