気仙沼行きの始発バスが高田高校前を出発した。車窓には津波に流された市街地の更地がどこまでも広がる。2015年7月26日午前6時。日曜日の早朝ゆえか乗客はいない。JR大船渡線は東日本大震災以来、陸前高田を走っていない。代替のバス高速輸送システム(BRT)が被災者の足である。
「鉄道の本格復旧を断念したい」。JR東日本は24日、沿線自治体に提案した。運休中の気仙沼―盛間に鉄路は戻らずBRTが継続する。復興の将来像が変わる。地元新聞3紙は1面で大きく伝えた。
消えた市街地で復興のかさ上げ工事が進む。丸ごと10メートルを超える高台にして商店街や住宅地をつくる。近くの小山を崩してベルトコンベヤーで土を運ぶ壮大な事業だ。がれきに埋もれた被災地は巨大な造成地に姿を変えた。
「鉄道がないと震災前より活気がなくなる。その昔、家出したとき飛び乗った列車だから愛着もある」。プレハブの復興商店街ですし店主の阿部和明さん(61)は残念がる。駅近くにあった店の本格再建の道はまだ描けない。
経営するジャズ喫茶を流され仮設住宅で暮らす冨山勝敏さん(73)は言う。「地元のみんなが鉄道を望む気持ちは分かる。ただ多額の費用に見合うのか。BRTより利便性で優れているのか」と。鉄路が運ぶ未来を描く代案は示せるか。(O)