
安全保障関連法案の審議が参院に移り、具体的な中身の議論が進む。自衛隊の任務と活動範囲を拡大し、集団的自衛権を可能にする安保法案だが、衆院で焦点となった違憲性を指摘する声はやまず、そもそも必要性について政府から説得力のある説明がなされたとは言い難い。元外務官僚で防衛大教授も務めた孫崎享さん(72)はどう見るのか。
参院での審議がスタートした7月27日、安倍晋三首相は「新3要件を満たさない場合は、米国から集団的自衛権行使の要請があったとしても憲法上、断るのは当然だ」と言い切った。
日本が武力行使に踏み切る3要件は、集団的自衛権の行使容認に転じた昨年7月の閣議決定の際、新たに打ち出された。その新3要件は、最初の一つ「わが国に対する急迫かつ不正の侵害があること」を「わが国に対する武力攻撃が発生したこと、またはわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」に書き換えたものだ。
集団的自衛権は同盟国が他国から攻撃を受けた際、同盟国と一緒に反撃する権利を指す。他国防衛の側面から「他衛権」とも評される。
政府は新3要件にある「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」の一文をもって、集団的自衛権を全面解禁したわけではなく、限定的に容認したにすぎないと強調する。日本が行使可能なのはこの「存立危機事態」に際した自衛のための措置であり、「他国の戦争に巻き込まれるのではないか」という疑念は当たらないとしている。