
安倍晋三首相が「110時間も費やした」と強調する安全保障関連法案の衆院審議だが、質疑と答弁を追い続けた倉持麟太郎弁護士(32)は「語られていない論点は少なくない」。10本の法改正と新法1本を一括して審議し、可決を図ろうという政府。そこでは「隙間だらけの非現実的議論が繰り広げられていた」。
撤退判断可能か
まずは重要影響事態法による後方支援活動。「現に戦闘行為が行われている現場では実施しない」と定め、実施には活動の基本的事項をまとめた基本計画を閣議決定し、国会承認することが必要となる。
だが、実際の派遣先である「実施区域」は防衛大臣が指定する。倉持さんは「どこへ派遣するのかという最重要事項が国会承認の対象から外されている。民主的なチェックなしに政権が派遣先を決めることができてしまう」と歯止めの甘さを指摘する。
肝心な「撤退」の議論もほとんどなされなかった。
同法6条4項によると「防衛大臣は、実施区域の全部又は一部において、自衛隊の部隊が後方支援活動を円滑かつ安全に実施することが困難であると認める場合(中略)には、速やかに、その指定を変更し、又はそこで実施されている活動の中断を命じなければならない」と規定している。
これは「現に戦闘が行われていない地域」で戦闘が始まった事態を指している。自衛隊が米軍の作戦行動の後方支援として物資を輸送しているとする。その現場が攻撃を受ける。日本にいるであろう防衛大臣が「撤退」を決断する。自衛隊の部隊長が支援活動を一時休止することができるとは定めているが、休止中は防衛大臣の「中断」命令をひたすら待つことになる。
そのようなことが可能だろうか、と倉持さんは首をかしげる。そもそも「想定している状況は戦争に他ならない。衆院の審議でこの点はほとんど議論されていない」