
衆院での強行採決を経て安全保障関連法案の審議が27日、参院に移った。多くの憲法学者らの「憲法違反」との指摘に対し、安倍晋三首相は「どこかの国と戦争をしようとしているわけではない」として「戦争立法」との批判は当たらないと主張する。だが、国会審議のウオッチを続ける弁護士の倉持麟太郎さん(32)はむしろ、歯止めがないまま戦争に突入していく事態を思い浮かべる。「これまでの答弁は矛盾だらけ。現実的にどう運用するのか不明な条文もあり、語られていない論点は多い」と参院での審議を注視する。
安保法案に対する「国民の理解が進んでいない」と安倍首相がフジテレビの番組に出演した20日、「自らが肝いりで用意した」と紹介されたのは、日本と米国を民家に見立てた模型だった。米国家の「母屋」と「離れ」で起きた火事を例えに集団的自衛権を行使する条件を説明してみせた。
「母屋には消しに行かない。(道路を隔てて隣り合う)離れから火が(日本家に)燃え移りそうだというとき、(米国と)一緒に消します」
「(新しい安保法制は)日本の国の存立が脅かされ、明白な危険にあることを要件にするのだから、米国の家でも(隣接する離れの場合には)消しに行くことができる」
火事は消せばそれで終わりだが、武力行使は相手に反撃される可能性がある。異質なものを同列にみなしてみせた説明に倉持さんは欺瞞(ぎまん)の意図をみる。
「安全保障環境の悪化に対応するための現実に即した法案と言いいながら、非現実的な比喩を用いている。例えば、法案によれば、武器や弾薬の輸送が後方支援と称してできるようになるが、番組では『道路越しに消火器を渡す』と説明していた。真実を覆い隠すためのごまかしに他ならない」
番組の中で安倍首相は「風向きによって日本へ火の手が向いてくる」と模型を操り説明していたが、現実の紛争は「風向き」といった単純な外的要因で状況が変化するわけではない。「後方支援であっても戦闘に関与する以上、敵側に存在する意思は重要な要素になる。相手がイスラム国のような組織なのか、国際的に国家と認められている国なのか、といったことでも状況は異なる。火事を例えにして分かりやすく説明するといいながら、法案の内実をまったく説明していない」