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思想家・内田樹さん
時代の正体〈142〉安保法案衆院通過(下)意図してつくられた独裁

社会 | 神奈川新聞 | 2015年7月18日(土) 03:00

 十分に審議が尽くされないまま衆院を通過した安全保障関連法案。思想家の内田樹さん(64)は安倍政権の真の狙いは国会を形骸化させることにあるとみる。一方で支持率の急落という誤算を前に「追い詰められた末の強行採決」であったと語る。

 国会審議を見ていて、安倍晋三首相がまともに答弁する気がないということはよく分かります。そもそも11法案(法改正10、新法1)を一括審議するということからも、法案の内容を個別的に精査する意図がないことは明らかでした。

 「審議は100時間を超え、審議を尽くしたといえる」という弁明には驚きました。審議の適否はそこで何が論じられたか、どこまで疑問点が解明されたかによって判定されるべきで、審議時間は副次的な指標にすぎない。何時間審議したかだけで委員会の活動の当否が決されるのなら、法案の意図を説明したくない政府は質問をはぐらかして、無意味な演説をテープ録音のように繰り返せばよいということになる。事実そうなりました。

 しかし、この「国会軽視」の狙いは法案提出の真意を隠蔽(いんぺい)するためだけではありません。無意味無内容な答弁を繰り返すことで、国会中継の視聴者たちに「国会審議は茶番だ」ということを印象づけようとしている。「立法府は機能していない」ということをNHKの電波を通じて全国民にアピールすること、それがあの不誠実な答弁の本当の狙いだったと私は思います。

 メディアは国会議員の議場でのだらしのない勤務態度を繰り返し報道してきました。居眠りをし、携帯電話の画面を眺め、立ち歩いている「学級崩壊」的な絵柄が繰り返しテレビや雑誌で流されました。

 メディアコントロールにあれほど神経をとがらせている官邸が、国会についてはそれが機能していないことをメディアがうれしげに報道するのを放置するのはなぜでしょうか。考えれば分かります。

 国会審議が空洞化・形骸化し、「国会審議なんて、アリバイづくりだ。ただの茶番だ」と思う国民が増えれば増えるほど、立法府の威信は低下し、行政府の権限が相対的に強まるからです。

 あんな絵柄を見せつけられていれば、有権者が「国会議員はろくに仕事をしていない」「人格見識ともろくな人物がいない」「あんな連中に高い給料を払うくらいなら議員定数の数を減らしたほうがいい」と思うことは止められない。けれども、「国民の代表者」が国のあり方を議する「国権の最高機関」の面目を失わせることによって最も大きな利益を得るのは行政府なのです。

 

 
 

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