
戦後70年の夏、戦後民主主義が揺らいでいる。安全保障関連法案の衆院通過という「非常時」を前に、作家の高橋源一郎さん=鎌倉市=はしかし、落ち着いて根源的な問いと向き合っている。「民主主義って、どういうことだったろうか?」
“超危うい”人治
「集団的自衛権が実際に行使された例、知ってます?」。いきなり質問。答えは、例えば旧ソ連のチェコ侵攻(1968年)やアフガニスタン侵攻(79年)、米国によるニカラグア侵攻(81年)やグレナダ侵攻(83年)など…。「ね。だいたいが攻撃を受けて行使したのではなく、武力侵入の口実にしてるんです。集団的自衛権自体が“超危うい”理論なんですよ」
高橋さんは作家であり明治学院大国際学部(横浜市戸塚区)の教授であるけれど、憲法学や外交防衛が専門というわけではない。だからこそ、必死に学んだ。「ここしばらく、ずっと憲法学や国連憲章に関する本を読んでいました」
理由は二つある。民主主義の危機だからであり、そうやって自ら学ぶことこそが、危機にひんしている民主主義の「実践」だと考えているからだ。まず前者の説明から始めよう。
安倍晋三首相は、集団的自衛権を違憲とした数十年にわたる政府見解をひっくり返し、多くの憲法学者による「違憲」の指摘にも「合憲だと確信している」と強弁してきた。「最高権力者が合憲だと言えば合憲になる。それは法治ではなく、人治です」。つまり、民主主義ではない。
民主主義とは王様が決めるのではなく、みんなで決めるものだ。でも現実的には難しいので事前に法を定めてそれに従う、従わせる。そんな仕組みだった。
「今回、それを壊してしまった。『情勢が変わったので解釈を変えます』ということは、単に解釈を変えるというより、法治でなくなること。誰もが従わざるを得ない憲法は要らない、ということ。その恐ろしさを、ぼくたちも知ったほうがいいでしょう」