
「怒ってますよ」と切り出し、すぐに「でもね」と言いつないだ。弁護士の倉持麟太郎さん(32)は国会審議中の安全保障関連法案を「違憲法案」と断じ、「国会での政府答弁は不合理で不誠実にして不十分」と考える。それでも迫る強行採決。あえて静かに言う。「怒りは対立しか生まない。期待できるのは与党議員の知性と勇気。退く勇気を引き出さなければ」。法をつかさどる実務家として何ができるのか、自問を重ねる。
さいたま市で6日に行われた衆院平和安全法制特別委員会。参考人の一人として意見陳述した。感情を排し、論理的かつ辛辣に安保法案の内実を解き明かした。
〈政府解釈がぎりぎりのところで守ってきた合憲のラインをまさにシームレスに踏み越え、解釈の限界を超えた改憲手続きなき実質改憲が行われることになります。改憲手続きを経ずに現行憲法に反する法制度を実現することは、もちろん違憲であります〉
破 綻
「明日の自由を守る若手弁護士の会」(あすわか)の一員で「安保ウォッチャー特殊部隊」を自称する。一条一条を読み込み、法案の全容をひもとく作業に当たった。浮かび上がったのはおよそ100の論点。「定義が不明確な『事態』や違憲の可能性が濃厚な『行動』が多々ある。個別の条文のここが違憲というレベルではなく、法案全般にわたり違憲だということだ」
5月26日、法案が国会審議入りすると、議員の質問と政府答弁を一つ一つ精査し、論点表に落とし込んでいった。
問題点を浮き彫りにし、疑問を埋めるはずの答弁はしかし、「あまりに不合理で不誠実にして不十分」だった。
それでも政府、与党は15日に委員会採決、16日に本会議採決に踏み切る方針を示す。「まだ41個も議論されていない論点がある。『丁寧な審議』も『話し尽くした』ということもまったくない」
意見陳述ではこうも述べた。
〈わが国の防衛がどうあるべきかについてはさまざまな価値判断があろうかと思いますが、これは価値判断の問題ではない。政府の説明は価値判断以前に論理的に破綻しているということでございます〉