国と地方公共団体は人種差別をなくす責務を法的に負っている-。そう明記した人種差別撤廃施策推進法案が超党派の議員連盟によって今国会に提出されている。街中で「朝鮮人を皆殺しにしろ」などと連呼するヘイトスピーチが社会問題化し、差別デモには非難の目が注がれるようになった。それでも人権団体や在日コリアンからは法制化を求める声が上がる。法律はなぜ必要なのか。
「そもそも、日本には人種差別をなくすための政策すらない」。人種差別問題に詳しい弁護士の師岡康子さんは国際化とはほど遠い現状をそう強調する。
政府の姿勢を物語るのが、日本が1995年に加盟した国連人種差別撤廃条約をめぐる対応だ。条約は「差別を禁止し、終了させる」ことを義務付けているが、政府は正当な言論までも不当に萎縮させる危険を冒してまで、新たな立法措置を検討しなければならないほどの差別はないとの説明を繰り返してきた。判断の前提となる現状把握のための実態調査を行ったことは一度もないのに、だ。
在日に向けられる差別の原点を朝鮮半島の植民地支配にみる師岡さんは「国会議員が動いて法案が提出されたことは歓迎する。だが、やっと、だ。この国は在日を100年以上にわたり差別し、日本人もそのことに無自覚だった。とりわけ国は在日を治安・管理の対象とみなして一貫して差別的に扱い、差別を放置してきた。その責任がいま問われている」と訴える。