
雨上がりの国会正門前、「安保関連法案に反対する憲法学者リレートーク」が行われたのは3日のことだった。呼び掛け人の一人、龍谷大の石埼学教授がマイクを手に声を震わせた。「これが学者の本分ではないとは分かっている。でも我慢ならなかった」。憲法で縛られるべき政権によって最高法規たる憲法が踏みにじられようとしている。「憲法違反」「立憲主義の危機だ」。全国の大学から集まった憲法学者が言葉を尽くし、抗(あらが)いの声を上げた。
黄色いビールケースの上、握ったマイクが小刻みに震える。
「学者が街頭で政治的発言をするなんてあり得ない。それが僕らの常識だった」
研究室で文献をあさり、論文を書き、授業をこなし、声が掛かって初めて講演に立つ。奥ゆかしきことこそ学者の本分、と思ってきた。
「だが」と続けた石埼さんの脇には憲法9条の条文が記されたパネルが掲げられていた。
「いま国会で審議されているテーマは安全保障法制の一部の論点にすぎない。政府見解を問いただし、明かすべき焦点はまだ数多くある」
例えば、重要影響事態法では自衛隊が海外の戦場で他国間の戦闘に巻き込まれ、武力行使に踏み切るケースがあり得る。
「状況によっては歯止めがまったく利かない。この事実が国民に浸透しているとは到底考えられない」
専門は比較憲法学だが、この数カ月は安保法案の条文を読み込んだ。矛盾は次々と浮かび、「どう考えても合憲という結論には至らない」。憲法学の先人たちが積み上げてきた精緻な論理を根底から覆す代物だった。