
いうなれば、と真山仁さんは一呼吸置いて口を開いた。
「終わった関係をずるずると引きずっているカップルのようなものだ」
国会審議中の安全保障関連法案だけでなく、憲法改正や原発再稼働に向けた動きといった個々の政策は必ずしも賛成を得ていないのに下がらない内閣支持率。このねじれをどうみるか尋ねると、気鋭の作家は男女関係にたとえてみせた。
互いの気持ちが切れているのは分かっているのに、まだ信じていたいという心情から、また会いに行ってしまう。そんな非論理的思考。つまり情動。あるいは、見たいものだけを視界に入れるといったご都合主義。そうして見落とされているものがある、と真山さんは言う。
「このままでは経済が行き詰まり、破滅するかもしれないと世界中が本気で考え始めている。もはや欧米諸国に先行きの余裕はない。新興国が元気というが、中国はほころびが出始めている。崩壊はいつ始まってもおかしくないのに、われわれはその現実から目を背けている」
そもそも、と振り返るのは、自民党のほとんど現状維持という結果に終わった昨年12月の衆院選。「あれだけ繰り返され、争点となった『アベノミクス』について誰も語ろうとしないのはどういうわけか。成長戦略として欠かせないとされた『第三の矢』はいまだに示されない。そのおかしさに誰か気付いているだろうか」
支持の正体
企業買収劇を描いた「ハゲタカ」で2004年にデビューし、以来、国内外の経済、政治、社会の変化に目を凝らしてきた。「終わりの始まり」は、敗戦からの復興、高度経済成長を経てバブル経済と崩壊を味わった戦後の歩みとも関係していると強調する。
「頑張れば報われるという時代は一人一人が国家というものを大事にする。だが、格差が顕在化し、拡大したこの20年で人々と国家の関係は崩れた」
国家にとっても不幸な時代の到来。
「貧しい人は明日の生活に追われ、金持ちは自らの幸せに満足しきっている。かたや国のことを考える余裕がなく、もう一方は必要性を感じない」
関心を持つのは自らの身の回りのことのみで、政治や国のあり方への関心は薄れ、ゆえに国は方向性を見失い、迷走が始まる。
それこそは、いつか来た道ではなかったか。
「日中戦争が始まった当時、人々は『大正デモクラシー』を誇らしげに語り、銀座あたりを着飾って闊歩していた。そうした国民の無関心さをよそに国は戦争を始めていた。今とすごく近い空気を感じる」
59・32%という戦後最低の投票率(小選挙区)となった昨年暮れの衆院選から半年。政府・与党は支持率を背に集団的自衛権の行使を可能にする安保関連法の成立を目指す。法案に対して200人を超える憲法学者が「違憲」と声を挙げているにもかかわらず、安倍晋三首相は「正当性、合法性には完全に確信を持っている」と胸を張ってみせる。真山さんは言葉を失う。
「残念ながら、安倍首相は単にかっこいいことがやりたいだけの人。勇ましい物言いを誇り、日の丸はためく中で