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天皇誕生日に考える「生前退位」 特別立法の何が問題なのか

社会 | 神奈川新聞 | 2016年12月23日(金) 14:50

(右から)戦史・紛争史研究家の山崎雅弘さん、皇室研究家の高森明勅さん、弁護士の倉持麟太郎さん
(右から)戦史・紛争史研究家の山崎雅弘さん、皇室研究家の高森明勅さん、弁護士の倉持麟太郎さん

(右から)戦史・紛争史研究家の山崎雅弘さん、皇室研究家の高森明勅さん、弁護士の倉持麟太郎さん
(右から)戦史・紛争史研究家の山崎雅弘さん、皇室研究家の高森明勅さん、弁護士の倉持麟太郎さん

【時代の正体取材班=田崎 基】ことし8月8日に天皇陛下から発せられた「お言葉」を受けて始まった「生前退位」問題。政府の有識者会議は「専門家」に対する意見聴取を終えた。論調は恒久的な制度化に慎重で、「陛下一代に限って退位を認める特別立法による解決」が有力となっている。だがそうした解決策に猜疑(さいぎ)の目を向ける論者は少なくない。事は天皇制や皇室だけの問題にとどまらない。そこには政権の狙いと右派勢力の思惑が交錯する。一体何が問題なのだろうか-。


お気持ちのポイント
お気持ちのポイント

 弁護士で憲法問題も詳しい倉持麟太郎さんは特別立法による解決策には大きく三つの問題があると指摘する。

 まず条文上、違憲の疑いを生じさせるという点。憲法はその第2条で「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」と明確に、「皇室典範によって定める」と規定しているからだ。

 倉持さんは「憲法は法律や政令、条約、そして皇室典範を、意図的に使い分けている。つまりここには規範性があり、特別立法によって皇位継承を定めることは違憲性を帯びる」と断じる。

 二つ目は、時の国会における多数派が恣意(しい)的に今上天皇の地位を奪うことができる仕組みになってしまうことへの懸念だ。「こうしたことを避けるためにも、皇室典範で手続きと要件を定めるべき」と指摘する。

 三つ目は、天皇の意向と、それを受け止めた国民の意思だ。「お言葉で、今上天皇は象徴天皇として憲法から期待されているものを極めて立憲的に解釈して取り組んでこられた。この象徴天皇としての役割を、今後も安定的に継続する必要性がある。そうした思いをにじませたお言葉を聞いた国民もまた世論調査では恒久的制度に賛成する意見が多数派であった」と解説する。

 その上で「多面的に考えても、選択肢としてあるのは皇室典範による制度化しかあり得ない」と強調する。


象徴としての務めについてのお気持ちを表明される天皇陛下=2016年8月7日、皇居・御所応接室(宮内庁提供)(共同)
象徴としての務めについてのお気持ちを表明される天皇陛下=2016年8月7日、皇居・御所応接室(宮内庁提供)(共同)

 また皇室研究家の高森明勅さんも「特別立法による一代限りの退位を認める」という対応に強い懸念を抱いている。「天皇の地位、その尊厳に関わる問題。到底許されない」と断じる。

 有識者会議やそのヒアリング対象者の選定に対し欺瞞(ぎまん)を指摘しているのは戦史・紛争史研究家の山崎雅弘さんだ。「議論が本格化する前から、政権内部から『一代限り、特別立法による解決の方針』と定期的に情報がリークされ続けていた」とその在りように疑いの目を向ける。

 有識者会議は、来年1月にも論点整理を公表する方針。これを受けて政府は具体的な方策を講じる。


首相官邸で開かれた天皇陛下の生前退位を巡る有識者会議の初会合。左端はあいさつする安倍首相=2016年10月17日午後(共同)
首相官邸で開かれた天皇陛下の生前退位を巡る有識者会議の初会合。左端はあいさつする安倍首相=2016年10月17日午後(共同)

憲法論議に詳しい弁護士の倉持麟太郎さん
憲法論議に詳しい弁護士の倉持麟太郎さん

「皇室への敬愛」はどこへ

弁護士、倉持麟太郎

 憲法問題に詳しい倉持麟太郎弁護士は、天皇生前退位について考える大前提として憲法2条の規定を指摘する。「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」。これほどまでに明確に「皇室典範」で定めるとしているにもかかわらず「特別立法による一代限りの解決策」を持ち出す論調に、「お言葉」へのあるまじき矮小(わいしょう)と曲解をみる。


 今上天皇のお言葉は、まず憲法があって私がいる、という言い方をしていて、まさに立憲的であった。

 憲法が期待している「象徴天皇」は、いればよい、という意味ではない。

 お言葉でもその点について実に考察されていて、こう述べられていた。

 〈即位以来、私は国事行為を行うと共に、日本国憲法下で象徴と位置づけられた天皇の望ましい在り方を、日々模索しつつ過ごして来ました〉
 つまり憲法があり、そこに定められた存在である「私」とは一体なんなのか、という思索の中から、象徴としてあるべき姿を模索してこられた。

 お言葉には、こうもある。

 〈私はこれまで天皇の務めとして、何よりもまず国民の安寧と幸せを祈ることを大切に考えて来ましたが、同時に事にあたっては、時として人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、思いに寄り添うことも大切なことと考えて来ました。天皇が象徴であると共に、国民統合の象徴としての役割を果たすためには、天皇が国民に、天皇という象徴の立場への理解を求めると共に、天皇もまた、自らのありように深く心し、国民に対する理解を深め、常に国民と共にある自覚を自らの内に育てる必要を感じて来ました〉
 この30年間で、今上天皇は象徴としての務めを拡大してきた。それは憲法が期待している「象徴」としての姿の理解だった。被災地を訪れひざをつき手を握りお言葉をかける。そうした行動が「日本国民統合の象徴」なのではないか、という考察によるものであった。

 例えばハンセン病療養所の訪問。今上天皇は皇太子時代を含め46年かけて、全国14カ所すべてを訪れた。

 政府による強制隔離政策によって、病気への誤った認識から差別と偏見を生み苦しんだ入所者の元を訪れ、語りかけ続けた。

 これは、自らが動けば社会的に忘れ去られようとしている問題にも光を当てられる、マスコミが取り上げる、との思いもあっただろう。

 こうした形で象徴としての務めを拡大し、そしてこの拡大した公務を安定的に継続する必要がある、という考えに基づき「お言葉」は成り立っている。

 そうであれば、それは特別立法などという一代限りの解決策などはあり得ようもない。

特別立法では「違憲」の疑い


 また、特別立法による解決は違憲の疑いを生じさせるということを強調したい。

 つまり憲法2条では、皇位は皇室典範で定める、と明記している。

 憲法は、詳細を定める宛先を「法律」「皇室典範」とで細かく使い分けている。例えば4条2項「天皇の国事行為」についてはあえて「法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる」と定めている。

 つまり皇位継承について「皇室典範で定める」という規定には、明確な規範性があり、逆から言えば「皇室典範以外で定めることを禁じている」と言える。


「特別立法」で解決することの違憲性を指摘する倉持弁護士
「特別立法」で解決することの違憲性を指摘する倉持弁護士

 これは重大な問題で、仮に皇室典範以外の特別立法などで皇位継承を定めれば、今上天皇の退位が違憲を帯び、それを踏まえた即位についても違憲性を生じさせる。その即位した天皇による国事行為、例えば国会の召集や衆議院の解散などすべての行為が違憲の可能性が疑われ、そこで採決した法律さえも違憲となりかねない。これは国家の根幹が違憲性を帯びることを意味する。

 この意味からも皇室典範改正による解決以外に選択肢はあり得ないだろう。

特別立法は「強制退位」と同義


 特別立法による一代限り生前退位を認めるという解決策には、さらに重大な問題がある。

 それは、時の国会の多数派が都合のいいときに天皇の地位を奪うことができる、という制度を導入することを意味するからだ。

 特別立法では日付を特定した上で、その他の一般的な条件や手続きを付さずに退位させる内容となる。このため、意味合いとしては「強制退位」が可能となる。

 いま、そうした前例が作り上げられようとしている。天皇を政治利用することさえできるようになってしまう。

 こうしてみると、「象徴」としての天皇がその務めを今後も将来にわたって安定的に継続、継承させるのであれば、それは恒久的な制度設計が必要であって、そうであれば皇室典範の改正しか選択肢はない、ということが分かる。

 では有識者会議が有力案としている「特別立法によって一代限り生前退位を認める」という、今上天皇の意思とも、あるべき制度設計という考え方からも真逆といえる解決策はなぜ生まれたのか、という疑問が生じる。

 一つ目は、「自分たちが皇室制度をコントロールしたいという思い」だろう。つまり「天皇の自由意思による退位を認めない」という姿勢を示す狙いがあるのではないか。

 だが、そこに「皇室への敬愛」という思想はあるだろうか。

 二つ目は、「女性天皇、女系天皇」について議論が波及することへの懸念がある。小泉政権当時に既に議論され、報告書も仕上がっている。皇室典範の改正が議論されるのであればこの点は議論が避けられない。

 ただ、経緯としては2度の安倍政権のたびに、この議論をつぶしてきた。天皇は男系で継承するのだ、という情熱がある方々からすれば、生前退位の問題が波及し、女性天皇、女系天皇が可能となるような皇室典範の改正は受け入れがたいのだろう。

 だが、それも皇室制度の永続的な維持、継承という今上天皇が「お言葉」に込めた思いとは完全に真逆を向いていると言わざるを得ない。

「逆向き」は誰だ


 一方で、生前退位を皇室典範によって恒久的制度とすることについて、いくつかの批判がある。

 例えば、「天皇の意向次第でいつでも退位できるのは恣意(しい)的になりかねない」という批判だ。

 これに対しては、そうであるからこそむしろ、皇室典範で制度設計すべきと反論したい。

 つまり一般的な手続きと要件を定めればよい。例えば、▽天皇による退位の意向▽皇室会議の同意▽成人に達している皇位継承者の存在-を条件とすることが考えられる。

 すでに皇室典範に定められている「皇室会議」は、合計10人で構成され、そのメンバーは衆参両院の正副議長、総理大臣、宮内庁長官、最高裁長官と判事、そして皇族2人からなる。

 衆参両院の正副議長(計4人)は野党側の国会議員も含まれ、さらに皇室メンバーも議員となっている。定足数は6人以上ということもあり、民主的な議決が期待できる。

 こうして考えると、皇室典範に生前退位の仕組み導入する改正は、それほど大きな改変をせずとも実現できるだろう。

 別の批判として、「天皇の意向を受けて立法的な措置をとることは『国政に関する権能を有しない』とする憲法に抵触する」というものがある。

 これに対しては、「天皇は象徴としての役割を果たせないと言っているのであって、国政の話などしていない」と反論できる。

 いずれにしても、お言葉に対して恒久的制度として生前退位を定めることを国民も認めているし、今上天皇もそうした考えをにじませていた。

 これに対し逆を向いているのは一体誰なのかと問いたい。

 (くらもち・りんたろう) 東京都出身。2005年慶大卒、08年中央大法科大学院卒、12年弁護士登録、横浜弁護士会に所属。14年から第二東京弁護士会。15年7月の衆院平和安全法制特別委員会で参考人として意見陳述し、「安保法案は切れ目のない違憲法案」と断じた。著書に「2015年安保 国会の内と外で-民主主義をやり直す」(共著、岩波書店)


(たかもり・あきのり) 岡山県倉敷市出身、国学院大卒、同大学院博士課程単位取得、同大日本文化研究所研究員。小泉純一郎内閣当時「皇室典範に関する有識者会議」で8名の識者、皇室研究の専門家の1人としてヒアリングに応じた。
(たかもり・あきのり) 岡山県倉敷市出身、国学院大卒、同大学院博士課程単位取得、同大日本文化研究所研究員。小泉純一郎内閣当時「皇室典範に関する有識者会議」で8名の識者、皇室研究の専門家の1人としてヒアリングに応じた。

皇室典範改正こそ唯一の策

皇室研究家、高森明勅

 皇室研究家で天皇の歴史や制度に詳しい高森明勅さんは、「特別措置法による一代限りの退位を認める」という対応に強い懸念を抱いている。「天皇の地位、その尊厳に関わる問題。到底許されない」。皇室の歴史とその現代的意味を見定めれば選択肢は、特別立法でも改憲でもない。「皇室典範の改正こそがあり得べき唯一の策」と断じる。


 前近代においては、生前退位が標準的な皇位継承の形で、むしろ天皇が終身在位する方が異例だった。つまり皇室の伝統は生前退位ということになる。

 ところが、明治22(1889)年2月17日に皇室典範を定めたとき制度上、退位の可能性が排除された。それを昭和の皇室典範でも踏襲した。

 いずれも政治的に特殊な状況があったことで、そうなっている。

 明治の際は、生前退位を認めるべきだ、という有力意見があったものの、当時の指導者である伊藤博文は、天皇の政治的権力が大きくなり過ぎるのではないか、ということを恐れ、生前退位を排除した。

 ただ、政治的権力を抑えたい一方で、弱肉強食の帝国主義時代に

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