川崎市川崎区の簡易宿泊所2棟が全焼し10人が死亡した火災を受け、市は2日、火元とみられる「吉田屋」と同様に3層構造で営業している簡宿の所有者らに、3階部分の使用を停止するよう申し入れた。宿泊者の安全面を考慮した措置だが、法令上の強制力はなく、使用停止期間などは設けていない。既に使用を自粛している施設もあり、説明会出席者は要請に理解を示したという。
同市によると、使用停止の対象は、建築基準法違反の疑いがあるとして調べている区内32棟の3階部分約520室。区内の全簡宿49棟(約2200室)のおよそ4分の1に当たる。簡宿利用者約1350人のうち3階宿泊者の250人ほどに、下層階に移るか民間アパートなどに転居してもらう。
この日、市が区内で開いた非公開の説明会には、28棟の関係者約40人が出席。多数の死傷者を出した今回の火災について、市は「3層目への火の回りが早く、避難が困難だった」と指摘。「宿泊者の安全を最優先に考えた緊急的な措置が必要」として、3階部分の早急な使用停止を求めた。
所有者側からは「一度の火災だけで使用を停止しなければならないのか」「(収入が減った場合の)補償はあるのか」といった質問が寄せられた一方、市は「最終的には理解していただけた」との考えを示した。既に4棟は部屋替えなどで対応済みという。
説明会に出席した、ある男性管理人は「部屋替えで対応できる施設とそうでない施設があると思う。後はオーナーが判断すること」。別の男性は「安全面を指摘されたら反対のしようがない。市に任せるしかない」と話した。
転居支援へ要件緩和
川崎市の福田紀彦市長は2日、簡易宿泊所の宿泊者の転居を促すため、該当者に市居住支援制度の要件を緩和するよう指示したことを明らかにした。
福田市長は簡宿3階部分の使用停止要請について、「建物が違法かどうかの確定には時間がかかるが、3階部分の火の回りが早いことは明らか。お願いベースだが、万が一に備えて早急に対応した」と説明した。
その上で、「簡易宿泊所は一時的な住まい」と述べ、アパートなどへの転居支援策として市居住支援制度の要件を緩和する考えを示した。同制度は高齢者(60歳以上)や障害者、外国人らが民間の賃貸住宅を借りる際に保証人が見つからない場合、市指定の保証会社を利用して入居を支援する。簡宿の宿泊者は高齢者が多いことから、同制度の利用を呼び掛けていく。
ただ、制度利用には国内在住の親族ら緊急連絡先が必要なため、福田市長は「この部分は若干の使いにくさがある。早急な改善を指示した」と述べた。