神奈川県動物保護センター(平塚市)は2014年度、初めて猫の殺処分ゼロを達成した。だがその陰で、限られたボランティアが収容された猫を引き取って処分を逃れさせ、一時保護や里親探しに奔走しているのが実態だ。ボランティアの活動や行政の取り組みを通して、「一つの命も殺さない」ために必要なことを考える。
2014年11月、神奈川県内に暮らしていたある女性(40)が命を絶った。津市の山道で、見知らぬ男女3人と集団自殺を図った。女性の居室だったマンションからは、十数匹の犬と猫の死骸が発見されていた。
悪臭にまみれた数十匹

三重県の津市と伊勢市を南北につなぐ伊勢自動車道の津インターチェンジ(IC)から北西約10キロに、安濃川のダム湖、錫杖湖(しゃくじょうこ)が水をたたえる。
背後の深い山々を秋には紅葉が彩る。湖畔の公園には親子連れや、経ケ峰を目指す登山者たちの姿がある。
その湖の脇を延びる細い市道に止めた軽自動車の中で、4人は練炭をたいた。遺書のようなものが残されていた。
猫保護ボランティア団体「たんぽぽの里」(相模原市中央区)の代表、石丸雅代さん(50)が女性を知ったのは、それより5カ月ほど前の昨年6月半ばすぎ。鎌倉市内のマンションで起きた猫数十匹の「多頭飼育崩壊」の現場でだった。
避妊去勢手術をされない猫が、繁殖を繰り返した。飼い主が放棄した室内は、大量のふん尿や抜け落ちた毛玉、ハエ、悪臭にまみれていた。
団体から連絡を受け、30人ほどが猫救出の協力のために駆け付けた。その中に、女性もいた。
怖かったね。もう大丈夫だよ-。衰弱しきった猫を優しくなでていた女性の手つきを、石丸さんは覚えている。
そのころ、すでに女性自身の部屋で飼育崩壊が始まっていたことが、後になって分かる。
「怖くなって逃げた」
「尋常じゃない臭いがする」。7月半ば、県内のマンションの清掃業者から…