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時代の正体〈105〉「軍事」か非軍事か

社会 | 神奈川新聞 | 2015年5月27日(水) 11:18

冨沢暉さん(左)と伊勢崎賢治さん(右)
冨沢暉さん(左)と伊勢崎賢治さん(右)

 安倍政権が打ち出す新たな安全保障法制関連法案の国会審議が始まった。焦点の一つが、活動内容と範囲が拡大することになる自衛隊のリスク。審議入りを前に都内で開かれたシンポジウムでも、リスクと国際貢献のあり方をめぐって元陸上自衛隊トップとNGO(非政府組織)で活動経験のある大学教授が議論を交わした。

 18日、衆院議員会館で開かれたシンポジウム。「自衛隊を活かす会」がまとめた安保政策の提言が読み上げられていく。

 〈憲法9条のもと、海外の戦争で一人の命も奪ったことのない日本は、非武装の軍事停戦監視、復興援助などで役割を果たし、これまで築いた「非戦のブランド」を守るべきだ〉
 会は、憲法解釈を変更し集団的自衛権の行使容認にかじを切った安倍政権に対抗して昨年発足。憲法の平和主義に即した自衛隊の国際貢献の道を探ろうとシンポジウムなどで議論を重ねてきた。

 提言は会の呼び掛け人である元防衛官僚の柳沢協二さんと東京外国語大教授の伊勢崎賢治さん、元防衛研究所所員で桜美林大教授の加藤朗さんがまとめ、安保法制関連法案の国会審議が始まるのを前に発表された。

異論反論

 元陸上幕僚長・冨沢暉さん


冨沢暉さん
冨沢暉さん

◆とみざわ・ひかる 陸自カンボジア派遣時の陸上幕僚長。陸上自衛隊北部方面総監などを歴任し、1995年に退官。東洋学園大学理事、同大名誉教授。
 提言に異を唱えたのが、この日のパネリストの1人、元自衛隊陸上幕僚長の冨沢暉さん。「日本が世界の平和に貢献するために安保法制の改定は必要だ」と口火を切った。

 安倍政権が新しい安保法制で目指すのは自衛隊の任務拡大だ。国連平和維持活動(PKO)での支援活動は戦闘地域の後方でしか許されていないが、戦闘地域の間際でもできるようにする。武器使用の範囲も広げ、駆けつけ警護や治安維持活動も可能になる。派遣先も日本周辺から地球規模に広がる。

 陸上自衛隊がカンボジアPKOに派遣された当時のトップ、陸上幕僚長だった冨沢さんはその方向性を評価する。

 「20世紀後半、大きな戦争が起こることはなく世界は平和になった。理由は米国を中心とする力の一極化が世界平和の役に立ったから。現在の秩序を維持するために日本も自衛隊の力をもって協力していくべきだ。日本が戦後70年、平和であったのは憲法があったからではない。米国によってもたらされたものだ」

 反論に立ったのは会の呼び掛け人の1人、伊勢崎さん。日本政府特別代表としてアフガニスタン軍閥の武装解除に成功した経験を踏まえて言う。

 「日本は海外で一発も銃を撃っていない国だからこそ価値がある。現地で戦争をしない国という良いイメージがあった。平和国家の強みを生かし、非武装で中立的な分野で国際貢献をしていくべきだ。外国で銃を撃つようになれば、それは失われる」

 日本が取り組むべき国際貢献として国連軍事監視団への参加を挙げる。多国籍の軍人で構成され、しかし非武装。丸腰で現地の武装勢力と向かい合い、交渉するというものだ。

危険認識

 東京外語大教授・伊勢崎賢治さん


伊勢崎賢治さん
伊勢崎賢治さん

◆いせざき・けんじ 東京外国語大教授。国連PKO上級幹部や日本政府特別代表として東ティモール、アフガニスタンなどで武装解除を指揮した。

 軍隊の保持と交戦権を否定する憲法がありながら、自衛隊が持つ軍事的側面から貢献度を強めていくのか、非軍事に徹するのか。議論は自衛隊が追うリスクに移っていく。

 冨沢さんは、伊勢崎さんのいう「銃を持たない支援」に首を振る。

 「まず軍隊によって紛争を治めなければ人道支援もできない。治安維持ができるのは軍隊しかいない。テロリストやゲリラはたいした戦力を持っていない。駆けつければ退散し、抑止できる。自衛官は覚悟を持っており、訓練もできている。今回の安保法制で自衛官への危険が大きく増すとは考えていない」

 伊勢崎さんはアフリカ・コンゴ共和国でのPKOを引き合いに出す。

 「東部だけで40の武装勢力が争う。自衛隊が参加した場合、想定されるのは駆けつけ警護ではなく、住民が武装勢力に追われて自衛隊の駐屯地に逃げ込んでくるケース。もし住民を目の前で見殺しにすれば非難は避けられない。戦えないなら、最初から自衛隊を出すなと国際社会から言われる」

 そもそも、現状認められている正当防衛のための武器使用も問題をはらんでいるとみる。

 「戦時国際法、国際人道法上の紛争の当事者国になる。国際紛争を武力で解決しないと書いてある日本国憲法に明らかに反する」

 軍隊ではない自衛隊には軍事法典や軍事法廷もない。

 「民間人を戦闘に巻き込んで殺害してしまう過失があれば、軍人は自国の軍法で裁かれる。警察組織の延長にある自衛隊が海外で何か問題を起こしたとき、どう裁くのか」

国会審議


 伊勢崎さんの指摘に冨沢さんはしばし考え込む。

 「コンゴのような状況のところに自衛隊は出せない。ただ、危ない場所は他国に任せて、自分たちは行かないというのは許されるのか。これからは一国平和主義は通用しない」

 そして国会での丁寧な審議を求める。安保法制は10の現行法改正と1新法からなっており、「さまざまに想定される事態への対応はそれぞれ法的根拠が異なり、ひとくくりにはできない。現状では国民に広く理解されているとはいえない」。

 伊勢崎さんも応じる。

 「自衛隊を出すなら紛争当事者になることを前提に議論するべきだ。これまで避けてきた議論を根本からしなければならない。まず、軍隊にするために憲法9条を変えなければならないという憲法改正の問題を避け、法整備だけで対処しようとするのは危険だ」


 

 


【自衛隊を活かす会の提言】(抜粋)
・日本は相手の破壊を前提とした抑止力ではなく、相手国の武力攻撃を阻止しうるためだけに武力行使をする。専守防衛のための防衛力を持つ。
・憲法9条のもと、海外の戦争で一人の命も奪ったことのない日本は、非武装の軍事停戦監視、復興援助などで役割を果たし、これまで築いた「非戦のブランド」を守るべきだ。
・自衛隊で米国の秩序構築を軍事的に助けるのは憎悪の連鎖でテロを再生産する失敗を繰り返す。時代にふさわしい日米関係を構築する。

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