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東海大法科大学院教授・永山茂樹さん
時代の正体〈103〉9条改正に匹敵の新法

社会 | 神奈川新聞 | 2015年5月25日(月) 11:49

永山茂樹さん
永山茂樹さん

 「国際平和支援法」に「重要影響事態安全確保法」-。強調される「平和」「安全」が、抱えるリスクをかえって映し出す。「戦争法」とも指摘される新しい安全保障法制の関連法案。戦後の平和主義はどう転換されようとしているのか。26日に始まる国会審議を前に東海大法科大学院・永山茂樹教授に聞いた。

 「専守防衛の枠を取り払い、場所も時も、目的も限定せず、自衛隊をどこでも、いつでも、何にでも使うことのできる軍隊にする。それが戦争法の基本的性質だ」

 自衛隊法、国際平和維持法などの軍事法が専守防衛を旨とする「防衛法」から「戦争法」へ大きく変容する。政府が今国会に提出した、現行10法の改正案と1新法からなる安保法案をそう位置付ける。

 防衛法と戦争法の違いはどこにあるのか。

 例えば、武力攻撃に至らない、武装集団の離島上陸や公海上での民間船への襲撃といったグレーゾーン事態への対応。

 「現状では警察が対応する。自衛隊法改正で、防衛法から戦争法になれば、自衛隊が乗り出すことになる」

 永山教授が指摘するのがそのリスクだ。

 「警察組織は治安を守るための組織。軍隊は相手を殺傷することを任務とする組織。自衛隊は国際的には軍隊とみなされており、事を穏便に収めようという姿勢とは正反対としか映らない。国家間のトラブルには双方に言い分があるものだ。相手が警察によって対応すれば、こちらも警察で対応する。軍隊が出てくれば軍隊で、となる。不測の事態を招く危険性は高まる」

 

対立軸

戦力の保持と交戦権を否定する憲法平和主義を貫くのか、安倍晋三首相の提唱する積極的平和主義に転じるのか。永山教授はそこに対立軸があると説く。

 同盟国への攻撃を自国への攻撃とみなし、反撃する集団的自衛権の行使を容認した昨年7月の閣議決定は戦後日本の大きな転換点として刻まれたが、「憲法平和主義の観点から見れば、集団的自衛権の行使は戦争法の枠組みの中にある一部分にすぎない。積極的平和主義を掲げた安保法制によって、集団的自衛権の行使にかかわらない部分でも戦争ができるようになるからだ」。

 確かに、防衛法としての軍事法で設けられていた制限が法案では次々と取り払われている=表参照。

 周辺事態法では他国軍支援の活動は「日本周辺」に限られていたが、改正法である重要影響事態安全確保法案では地理的制限はなくなる。米軍以外への支援もできるようになる。

 国際平和協力法改正案では「駆け付け警護」も可能としている。危険にさらされた他国軍や非政府組織(NGO)などの民間人の元に駆け付け、武器を使って助けることだが、憲法が禁じる海外での武力行使につながる恐れがあるとして現行法の武器使用基準では認められていない。

 新法である国際平和支援法はどうか。

 国際紛争に自衛隊を派遣するか否かはケースごとに国会で論議し、特別措置法を設けて対応してきた。新法ができれば恒久法となり、その必要がなくなる。

 活動場所も「非戦闘地域」から「現に戦闘が行われていない地域」へ拡大。「前者は活動が終わるまで戦闘がないと判断できる地域。後者はその瞬間に戦闘がない地域というだけで、その先どうなるかは分からない。つまり攻撃されるまではそこにいる。撃たれれば反撃することになる」

 安倍首相は「部隊の安全を確保できない場所で活動することはなく、危険が生じた場合は、業務中止や退避など明確な仕組みを設けている」と自衛隊員の危険は回避できると主張する。だが、永山教授は「攻撃されたらすぐに撤退するとあらかじめ明言している軍隊は真っ先に狙われる。強大な米軍を攻撃するよりよっぽど効果的だからだ」と首を横に振る。

 

未来像

後方支援の現場で自衛隊が自分の身を守るか、武器を奪われないようにするときだけに限られていた武器使用も、任務遂行を目的にしたものであれば認められる。

 自衛隊員が戦場で相手を殺し、殺されることに道を開く戦争法。その先に待つ未来像に永山教授は目を凝らす。

 「日本は戦争に対する反省から平和憲法を戦後の出発点にした。それはまた二度と国民に殺人を強制しない国づくりでもあった。それが最も大きな国の原理原則であったはずだ」

 海外で放たれる1発の銃弾が国家と社会の変容を迫る。戦火の犠牲者だけではない。心身ともに傷ついた帰還兵と家族の悲嘆。軍事に組み込まれてゆく経済と労働の息苦しさ。報復テロの恐怖から監視を強め自由が奪われゆく市民社会。

 国民のための国家から、軍事のための国家へ-。

 「戦争法が制定された瞬間、自衛隊は他国と変わらない『普通の軍隊』になる。得られた結果は軍隊の保持と交戦権を否定した憲法9条を変えることと実質的に同じになる」。安倍首相が悲願とする憲法改正はこうして果たされることになる。

 本当にそれでよいのだろうかと永山教授は問い掛ける。引き合いに出すのは9条改正について尋ねた各報道機関の世論調査結果。「ことしの憲法記念日を前にしたNHKと産経、朝日、毎日新聞の調査で9条改正に賛成の人はいずれも20%台にとどまった」と指摘し、続ける。「日本社会を軍事化する戦争法の制定は9条改憲に匹敵する。そういう意味を持つものであることが広く理解されれば、戦争法に賛成する人も2割にすぎないということになるはずだ」



 

ながやま・しげき 1960年横須賀市生まれ。憲法学者。共著に「平和と憲法の現在-軍事によらない平和の探究」。

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