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時代の正体〈102〉沖縄への共感広がる

社会 | 神奈川新聞 | 2015年5月24日(日) 09:37

臨時制限区域に入り、海上保安庁の船(右)に追跡され、追突される抗議船=3月10日午後、沖縄県名護市辺野古沖(沖縄タイムス提供)
臨時制限区域に入り、海上保安庁の船(右)に追跡され、追突される抗議船=3月10日午後、沖縄県名護市辺野古沖(沖縄タイムス提供)

 沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設に反対する沖縄への共感が、全国で広がっている。普天間飛行場(宜野湾市)の辺野古移設に固執する政府に対し、沖縄が歩んできた苦難の戦後史をひもとき、県民の心のひだを切々と説く翁長雄志知事。圧倒的な民意を背景にした言葉が潮目を変え、沖縄の声がようやく多くの国民に届き始めた。

 海上保安庁の船が一回り以上も小さな抗議船に追突する。抗議する人々が乗ったカヌーに海上保安官が飛び移り、転覆させる。投げ出された人々を海保の船に引き上げ、時には馬乗りになって身柄を拘束する。

 抗議する人々の「安全確保」を名目にした海保の警備活動。自身も抗議船に乗船する名護市の東恩納琢磨市議(53)は「過剰警備。小型船さえ転覆させられた」と語気を強める。

 カヌーで抗議中に拘束された人々が民間地の岸から約4キロ沖で解放されたこともある。「嫌がらせ。リーフの外はカヌーの初心者には危険なのに」。エコツーリズムを手掛けてきたプロの意見だ。

 自宅前に広がる海には一時、15隻ほどの巡視船が居並んだ。「(中国が領海侵入を繰り返す)尖閣諸島でも、(中国漁船がサンゴを大量密漁した)小笠原諸島でも、これほど多くはないはず。なりふり構わぬ政府の意思を感じる」

首相の“メディア工作”



 東京・霞が関で2月、海保の広報担当者が沖縄の地元2紙の記事について、在京メディア各社の記者に個別レクチャーを行った。海保長官の定例会見直前、記事は辺野古での海上警備を「過剰」とする内容だった。

 神奈川新聞社の取材に対し、海保は「一部メディアの要望に応じ、記事内容の前後関係を説明した」と釈明。沖縄タイムス東京支社報道部の宮城栄作部長(43)は「不都合な報道が拡散しないようにしていたのではないか」と指摘する。

 同紙はまた、別の一件も報じている。

 4月、小野寺五典元防衛相が講演で、新基地建設をめぐり“メディア工作”をしていたことを明らかにした。2013年3月に埋め立て承認申請書を県に提出する際、当日に都内で桜の花見会を開き、防衛省担当記者らを油断させたと説明。提出時の模様は撮影されず、「うまくいった」と述べたという。

 さらに、政権取材を続ける時事通信の田崎史郎解説委員の証言を基に「(小野寺氏に対し、安倍晋三)首相の指示があった」と続報した。

 田崎氏は著書「安倍官邸の正体」で、首相が小野寺氏に指示した経緯を記述している。神奈川新聞社の取材に対し、「首相は第1次政権時の反省から、特にテレビ対策に気を使っている」と指摘した。

 宮城部長が日々の取材で強く感じるのは、沖縄の負担軽減や振興、抑止力の維持の範囲を逸脱する質問には答えないという政府の姿勢だ。「自分たちの言い分だけを報道させ、『政府は法にのっとり、沖縄のためにやっている。それに対し、知事が反対している』という印象を全国に植え付けようとしている」

 一方、「不都合なことは隠そう、抑え込もうと躍起」といい、「外国人特派員の記事への抗議やテレビ局への圧力も根っこは同じ」と指摘。「メディアを利用し、世論を誘導して政策を押し進めるようとする。政府の振る舞いは沖縄だけでなく、全国どこでも起こり得る」と訴える。

 専修大学の山田健太教授(言論法)は安倍政権のメディア戦略の特徴として、辺野古移設や原発再稼働など基幹となる政策について(1)異論を認めない(2)個別に対応する-2点を挙げる。「自分の言いたいことを伝える究極の形が首相の単独インタビュー。海保の個別レクも、その変化形」と解説。「沖縄だけの問題では決してない」と強調する。

ようやく実現した会談でも・・・




 翁長県政の誕生から4カ月余の4月17日、首相との会談がようやく実現した。

 当初は知事が先に発言する予定だったが、当日朝に官邸側の意向で急きょ順番を変更、さらに会談では、冒頭5分ずつを公開する約束だったが、首相に続く知事の発言は予定時間前に突然、取材を打ち切られたという。「えっ、と驚いた知事の表情が印象的だった」。宮城部長が振り返る。

 首相との会談に先立つ同5日、那覇市内で知事と菅義偉官房長官が会談した。

 「日本の政治の堕落ではないか」

 知事は菅氏に対し、沖縄戦以降の歴史や基地集中の不平等性を訴え、普天間返還に伴う代替施設を沖縄に負担させる政府の姿勢を厳しく非難した。

 建設方針を示す際に繰り返す「粛々と」という言葉についても、「問答無用という姿勢が感じられる」と批判。「新基地は絶対に建設できないと確信を持っている」と言明した。

知事の発言を公開制限



 そして迎えた官邸での首相との会談。「新基地建設反対の圧倒的な民意が示された」。知事は、名護市長選や知事選、衆院選の結果を踏まえて強調。さらに「沖縄は自ら基地を提供したことは一度もない」「銃剣とブルドーザーで強制接収された」と歴史を振り返り、こう続けた。

 「自ら土地を奪っておきながら老朽化したから、世界一危険だから沖縄が負担しなさい。嫌なら代替案を出せと言われる。こんな理不尽なことはない」

 そこで官邸スタッフが「報道は退室」と割り込み、公開された知事発言は3分余にとどまった。

 首相との会談から1カ月後の今月17日、那覇市内で開かれた県民大会で知事は壇上に立った。

 「首相は『日本を取り戻す』と言っているが、沖縄が入っているのかと強く言いたい。『戦後レジームからの脱却』とよく言うが、沖縄に関しては『戦後レジームの死守』をしている」

 3万5千人(主催者発表)の参加者と県内外のメディアを前に、首相らと会談した際の発言を繰り返し、問い掛けた。

 「自国民に自由と人権、民主主義という価値観を保障できない国が、世界の国々とその価値観を共有できるでしょうか」

「沖縄の痛み共有」の思い全国に


 知事と菅氏の会談以降、報道各社の全国世論調査では、辺野古移設反対の意見が多数を占める。

 山田教授は調査方法や時期などが異なるとした上で「『沖縄の痛みを共有しないといけない』『自分たちの問題として考えないといけない』という思いが広まっている」と分析する。

 在京メディアが沖縄を大きく報道するのは政治問題化したときだ。山田教授は「従来は沖縄県民の思いを伝えることはなく、身近な問題にならなかったが、今回は知事の言葉が歴史を踏まえた県民の声として報じられ、国民に響いた。県民の思いとして初めて伝わったのではないか」とみる。

 知事は県民大会で世論調査の結果に触れ、「本土と沖縄の理解が深まったことに大変意を強くしている」と評価。新基地建設阻止が目的の「辺野古基金」への寄付は設立発表から約3週間で1億円を超え、本土からの入金が約7割に上った。20日時点で2億5千万円を突破したという。

 課題は沖縄への共感を一過性で終わらせないことだ。

 山田教授は「県民は一朝一夕では解決しないと理解している。急激に冷めることはない」とする一方、「本土側は動きがなければすぐに諦めに変わってしまう」と懸念。継続した報道とともに、自民党内や米国側から見直しの声が出るなど政治的な動きの有無が鍵を握るとしている。

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