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ドローン少年、逮捕を考える

社会 | 神奈川新聞 | 2015年5月23日(土) 10:34

逮捕された横浜市の少年の自宅から押収したドローン=21日午前、警視庁浅草署
逮捕された横浜市の少年の自宅から押収したドローン=21日午前、警視庁浅草署

 小型無人機ドローンを飛ばすことを示唆した横浜市の無職の少年(15)が警視庁に逮捕された。都内であった祭りの運営を妨げたとし、威力業務妨害容疑が適用された。ドローンを飛ばすこと自体は違法ではなく、飛ばしてもいない少年の逮捕には異論も上がる。識者に聞いた。

◆「人騒がせ」は犯罪か/落合洋司さん(弁護士)

 逮捕は強引で無理があるという印象だ。立件の必要性が先行している。再三注意しても聞かないため、家庭裁判所に送致して保護観察処分などにし、少年の行動に法的な縛りをかけたいのだろう。

 犯罪としての「業務妨害」に当たるのかという疑問がある。少年がやろうとしていることは「迷惑を掛けてやろう」とか「びっくりさせてやろう」という意図ではなく、「禁止されていませんよね」などとほのめかしたにすぎないからだ。

 自らがやろうとしていたことを知ってもらいたいという示威はあったようで、その意味で人騒がせではある。だが、人騒がせが「業務妨害」であるとすれば、適用のハードルはかなり下がる。官邸の屋上にドローンを落とした男性の逮捕も同様だが、こうした形で運用されると自由な社会活動が過度に抑制されかねない。

 そもそも業務妨害罪は実害が発生していなくても「恐れ」があれば立件できるため、乱用の恐れを内包した罪状といえる。さらに言えば、被害届に対して警察はさまざまな理由をつけてほとんど受け付けていないという実態がある。恣意(しい)的な運用が一般化すれば、例えば予告して市民活動しようとした場合、事前に抑制することも可能で、萎縮を生みかねない。

◆刑事手続きは不適切/江川紹子さん(ジャーナリスト)

 少年の行動はやはり度が過ぎていたと思う。大人たちを困らせ、社会を挑発し、警察に迷惑を掛けて喜ぶ。ネットの観衆がそれを見てあおる。放っておいて良かったとは思わない。

 そうだとしても、当てはまる法令がないときに威力業務妨害容疑で逮捕してしまえ、というのはやはりまずい。逮捕は警察の行き過ぎだったと思う。

 少年の生い立ちや生活環境といった背景を詳しく見る必要があるが、専門家による福祉的、教育的対応が必要なケースではないだろうか。人に迷惑を掛けてはいけないという世の中の仕組みや人の気持ちを感じ、想像することの大切さを少年は学ぶ必要がある。その意味でも刑事手続きは適切ではない。

 注目される出来事が起きると得てして世の中は極端に反応する傾向にある。こうした事件が起きるたび、厳罰化や新たな法規制を求める声が上がる。

 ドローンでお祭りを撮影したら、見たこともないような面白い映像になるだろうと思う。一つの表現活動として当然許されていいはずだ。治安の維持は重要だが、一方で極端な事案に合わせてひとくくりに規制することによって、他の権利や自由が損なわれるということを忘れてはならない。世の中はこうすれば全てが解決するという単純な構造でできてはいない。


◆社会全体で更生 本筋/青木理さん(ジャーナリスト)

 少年はまだ15歳。保護や教育の対象だ。犯罪に当たるか疑わしい行為に対し、注意しても聞かないからと警察が逮捕する社会とは一体何なのだろう。

 問題があるのなら、親や学校教育、あるいは社会全体で更生させていくのが本筋だろう。確かに対処が難しい少年だったのかもしれないが、そうしたケースでこそ社会はありようが試される。今回は警察権力によってその行為を止めた。これは社会の敗北ではないか。

 二つの意味で社会の不健全さを感じる。

 ネット上では、理屈をこねて大人を煩わせる少年が警察権力によって断罪され、「ざまあみろ」といった言説が飛び交っている。不愉快に感じるものが権力によって排除されることで溜飲(りゅういん)を下げるという不健全な思考がそこにある。

 もう一つは、今回のようなケースでの威力業務妨害罪の適用。これが前例となり、法の適用範囲の拡大につながる。不健全であると同時に、市民社会にとってもいいことではない。

 ドローンがさまざまに悪用される恐れがあるとはいえ、これほど騒ぐことだろうかと不思議に思う一方、規制の法整備に向けた動きに今回の事件をぴたりとはめ込んだ印象も受ける。法規制のための世論誘導に利用されているのではないだろうか。

◆規制後押しする皮肉/ろくでなし子さん(芸術家)

 少年が何か「妨害」したのだろうか。見せしめとして逮捕したようにしか思えない。

 「捕まって当然」といった逮捕後のネット上の反応が怖い。ドローンを飛ばしてネット動画でお金を得ていたことを非難する声も多いが、新たな商売の可能性を発見してエライじゃないかと褒められないものか。警察官や大人に生意気な発言を繰り返していたようだが、まさに子どもっぽい15歳。そういう目で見られない社会は明らかに寛容さを失っている。

 私は女性器をテーマにしたアート作品がわいせつだとして逮捕・起訴されたが、今回の事件が「ろくでなし子のときと同じだ」という書き込みがネットであった。「迷惑なやつを逮捕してやった」というわけ。明確な被害者がいないのに、そうしたバッシングが権力側の規制を後押しし、ドローンを飛ばす自由を自ら失うというのは皮肉だ。

 私は逮捕時にネットでうそをばらまかれ、非常に困った。なのに警察は書き込んだ人を逮捕しなかった。威力業務妨害罪の恣意的運用とはまさにこういうことではないか。

 二重三重に腹立たしく、怒りで創作意欲がかき立てられた。だからドローンをデコレーションして「(女性器をかたどった)ドローンまん」を作ることにしました。

 【少年の逮捕までの経緯】少年の逮捕容疑は14~15日、動画サイトで「あした、浅草で祭りがあるみたいなんだよ。祭り行きますから。撮影禁止なんて書いてないからね」などとドローンを飛ばすことをほのめかすような発言をし、15~17日に東京・浅草神社で開催された三社祭の主催者にドローンを禁止する張り紙をさせるなど業務を妨害した疑い。

 警視庁によると、9日に長野市の善光寺境内に落下したドローンを飛ばしたのと同一人物。14、15の両日、東京都千代田区永田町の国会議事堂近くなどでドローンを飛ばそうとして、警視庁に口頭で注意を受けた。今月に入り、東本願寺(京都市下京区)や姫路城(兵庫県姫路市)付近でもドローンを飛ばし、警察官から注意を受けていた。

 ドローンをめぐっては、4月に首相官邸屋上でドローンが見つかった事件を受け、政府・自民党は規制法案の今国会での成立を目指している。

 
 
 
 

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