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「逃げても罪消えない」遺族
悲しみ胸に前へ 平塚タクシー強盗殺人5年

社会 | 神奈川新聞 | 2015年5月20日(水) 13:15

事件後、荒井さんの次男が作製したポスター。命の尊さを訴え、タクシー強盗殺人事件の再発防止を呼び掛けている
事件後、荒井さんの次男が作製したポスター。命の尊さを訴え、タクシー強盗殺人事件の再発防止を呼び掛けている

 2010年5月、平塚市横内の新幹線高架下に止められたタクシー内で、運転手の荒井庄次郎さん(62)が殺害され、売上金を奪われた強盗殺人事件は、未解決のまま20日で発生から5年を迎える。遺族は事件の解決を願い、風化を憂いながらも、前を向いて生きている。それが、亡き夫や父の願いでもあると信じて。

 「早い5年間だったな、とは思いますね。つい昨日のことのように思い出すんですけどね。何とか前向きに生活できるように、家族みんなで生きてきた感じです」。荒井さんの妻(60)が静かに振り返る。

 事件当時、美術大4年だった次男は、卒業制作の内容を変更。思いの丈を込めてポスターを制作した。

 「いのちは、お金に替えられるのか」

 「3万枚の1円玉が、父の歩んだ62年間なのか」

 「命は、もっと尊い」

 わずか数万円の現金と引き換えに、命を奪われた父の姿を1円や500円硬貨で表現した。ワイシャツや革靴は、事件当時に荒井さんが身に着けていたものだ。

 「これを見ていただくと、そのときの気持ちが分かるかな、と」



 無口で優しく、真面目な夫だった。長年勤めた製紙会社が倒産。車の運転が好きだったこともあり、07年3月、相模中央交通に入社した。平塚市と周辺の有名店や建物を綿密に調べ、日々の仕事の記録をこまめにメモするなど、人柄そのままの仕事ぶりだった。「真摯(しんし)に取り組んでいたからこそ、こういう目に遭うのは理不尽な気がすごくします」

 事件後の長女の成人、次男の就職、結婚…。「主人の時間は5年前で止まってしまっている。子どもの成長や、家族が増える喜びが分からないまま逝ってしまったと思うとかわいそう。病気とかだったらまだ諦めがつきますけど、突然の凶行でこういう結果になったので、なおさらね」

 つらかったのは事件直後よりも1、2年後だった。

 外で車の音がする。「でも、あれはお父さんの音じゃない。もう帰ってきてくれないんだ」。外出先で老夫婦が寄り添う姿を目にするたび、子どもが運転する車に乗るたびに込み上げる。「もう、そばにいてくれないんだな」と。

 昨年、35年夫と暮らした県内の自宅をリフォームした。服や持ち物なども思い切って処分した。「いつまでも沈んでいたら主人も喜ばない。残っている人生を楽しんでいかなくちゃいけない。前向きに生きている子どもたちと私を見ていてくれるんじゃないかな」。それでも「いちばん思い出が多い」という車は手放すことができなかった。



 あれから5年。「もぎ取られるような苦しみや、大きな喪失感から少しずつ解放されてきた」と感じる今、犯人逮捕を願いながら、こうも考える。

 「やったことは誰も見ていない。でも、その人の心の中にはずっと残っている。その人が生きていく限り、たとえ捕まらなくても、罪としてずっと背負っていくんだなって思います」

 ◆平塚タクシー運転手強盗殺人事件
 2010年5月20日午前3時45分ごろ、平塚市横内の新幹線高架下に止められたタクシーのトランク内で、運転手の荒井庄次郎さん(62)が首から血を流して死亡しているのを平塚署員が発見した。運転席付近が燃えており、売上金がなくなっていた。荒井さんは同日午前2時20分ごろ、JR平塚駅北口で客を乗せ、何者かに刃物で切り付けられた後、トランクに押し込められたとみられる。情報提供は、平塚署特別捜査本部電話0463(31)0110。


自宅にある荒井さんの遺影。愛用していた携帯電話とアルコール検知器などが供えられている
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