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時代の正体〈97〉安倍首相の言葉(2)

社会 | 神奈川新聞 | 2015年5月16日(土) 11:34

自衛隊の海外活動拡大を図る新たな安全保障関連法案を臨時閣議で決定し、記者会見する安倍首相=14日午後、首相官邸
自衛隊の海外活動拡大を図る新たな安全保障関連法案を臨時閣議で決定し、記者会見する安倍首相=14日午後、首相官邸

決めつけどちらが

 「平和を守る」「日本人の命と平和な暮らしを守る」「切れ目のない備えを行う」

 身ぶりを交え、繰り返し安倍首相が口にした言葉の数々だが、憲法学を専攻する学習院大教授の青井未帆さんには抽象的な単語の羅列にしか聞こえなかった。

 「備える」「命を守る」と言われ、否定できる人がいるだろうか。「平和な暮らし」も「抑止力」も同じ。誰もそこに異論はない。否定できない類いの言葉を並べ、事を極めて単純化してみせている印象を受ける。

 心と感情に訴えかける言葉ではあるが、国の安全保障の現実とはそんなに単純なものではない。

 一体どこまで備えれば足りるのか、具体的にどのようにして誰の命を守ろうとしているのか。一切の説明はなかった。

 つまり、こうした言葉の一つ一つは際限のない、伸縮自在な概念を持った言葉なのだ。だが安倍首相は意図的に言葉の中身を明かさず、その限界さえも示すことなく、説明したことにしてしまった。


 「アメリカの戦争に巻き込まれるのではないか、漠然とした不安をお持ちの方にここではっきりと申し上げます。そのようなことは絶対にあり得ません」

 断言し、抑止力の高まりによって日本が攻撃を受ける可能性がなくなっていくと理屈付け、「戦争法案などという無責任なレッテル貼りはまったくの誤りです」と帰結する。青井さんはそこに矮小(わいしょう)化と決め付けを用いる安倍首相の思考回路をみる。

 安保法制に反対している人たちの主張は多様で、論理も異なる。当然、ひとまとめにしてくくれない。

 なのに「巻き込まれ論」や「戦争法案」といった想定される批判をひとまとめにして小さな土俵の中に押し込め、「誤り」と決め付けてみせた。

 安倍首相自らは抽象的な言葉を並べておきながら、反論に対してはごく一部の主張に色を付け切り捨てた。無責任なレッテルを貼ってみせたのは安倍首相ではないか。


 会見全般を通じて青井さんが感じるのは自国中心的な発想だ。「日本が攻撃を受ければ米軍は日本を防衛するために力を尽くしてくれます」「もし日本が危機にさらされたときは日米同盟は完全に機能する」

 だが、「米国は日本を守ってくれる」という無垢(むく)な信頼はどれだけ意味をなすのだろうか。

 米国は米国の国益のために行動する。普通の大人なら、それくらいは分かる。

 いま沖縄の米軍基地が問題になっている。米国にとって日本は地政学的に重要な場所であることは間違いない。一方で日本国内の世論は複雑化している。

 沖縄を含め、国民の声に耳を傾けるべき状況で、首相が米国への全面的信頼を躊躇(ちゅうちょ)なく公言することが、高度な駆け引きが要求される外交交渉にどんな影響を与えるのだろうか。

 あまりに素朴過ぎる米国への信頼を、公式な会見の場で声高に口にされ、正直面食らった。


論理性欠く「平和」

 「会見を聞いていて、妙な気持ちになってしまった」。奥田愛基さん(22)は、むしろ冷ややかに聞いた。

 安倍晋三首相は会見で高らかに宣言してみせた。

 「二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない。(中略)いかなる紛争も武力や威嚇ではなく国際法に基づいて平和的に解決すべきである」

 素晴らしい国じゃないか、と奥田さんは強くうなずく。

 一方で同じ口から続けられた言葉に戸惑う。

 「私たちのために任務に当たる米軍が攻撃を受けても私たちは日本自身へ攻撃がなければ何もできない、何もしない」「本当にこれで良いのでしょうか」

 集団的自衛権の行使に加え、法案は、地理的制限を取り払い、米軍の後方支援として世界中どこへでも自衛隊を派遣できるようにしている。

 「平和的に」と言いながら、米軍が世界で展開する戦争を支援すると言う。論理的一貫性を欠いているとしか言いようがない。

 言葉の一つ一つを断片的に捉えると納得できる部分もある。だが全体としてみると、一体どういう帰結でそうなるのかさっぱり分からない。

 日本を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増している。だから法改正するというが、隣国との緊張はかえって一層高まり、硬直状態に陥りかねないのが現実だろう。

 それは、一方で重要だと強調した「重要な外交交渉」の効果を失わせることに他ならない。

 そもそも「集団的自衛権は持っているが、行使できない」というこれまでの憲法解釈からかけ離れることについて、まったく説明がなかった。

 もっともらしいことを言っているが結局、安倍首相は憲法を守るという発想がまるでないのだと、あらためて実感する会見だった。


 国会審議の過程で法案修正の考えがあるか、と問われた安倍首相は「政府としては国会審議を通じてこの平和安全法制が必要だということを各議員の皆さまにご理解いただくべく、努力していきたい」と答えた。

 つまり国会審議で方針を覆すつもりはないと言っている。

 そもそも安倍政権はこれに先立ち、日米防衛協力指針(ガイドライン)を改定し、米議会での演説では安全保障法制の改定を「この夏までに成就させる」と約束してきた。

 国会の意味とは何なのか。この国の民主主義はどうなってしまったのか。

 議会制民主主義や立憲主義、それのおおもとの憲法もすっ飛ばして、自らのやりたいことをやり通す。そういう政権だということを露呈しているわけだが、首相にその自覚はあるだろうか。


 安倍首相は問われるより先に、法案に疑問を感じる人に対しこう反論した。

 「抑止力はさらに高まり、日本が攻撃を受ける可能性は一層なくなっていくと考えます。ですから戦争法案などといった無責任なレッテル貼りはまったくの誤りであります。あくまで日本人の命と平和な暮らしを守るため、そのためにあらゆる事態を想定し、切れ目のない備えを行うというのが今回の法案です」

 丁寧な説明を心掛けると言っておきながら、国民からの異論に対して先回りして反論してみせる。そういう姿勢の政権なのだということを踏まえて、僕らは向き合わなければいけない。


 

あおい・みほ 東大大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。成城大准教授などを経て2011年から学習院大教授。憲法上の権利の司法的救済、憲法9条論などが研究テーマ。

 

おくだ・あき 明治学院大国際学部4年。2013年に立ち上げた特定秘密保護法に反対する学生団体「SASPL」を基に今月、「SEALDs」(自由と民主主義のための学生緊急行動)を発足。

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