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時代の正体〈93〉 与党合意を問う(上)

社会 | 神奈川新聞 | 2015年5月12日(火) 13:29

与党協議を終え報道向けに並んで説明する自民党の高村副総裁(右)と公明党の北側副代表 =衆院第2議員会館
与党協議を終え報道向けに並んで説明する自民党の高村副総裁(右)と公明党の北側副代表 =衆院第2議員会館

 安全保障法制に関する自民、公明両党による与党協議が11日、最終合意をみた。会見に立った高村正彦自民党副総裁と北側一雄公明党副代表の発言と法案の文言が意味するところは何か。元陸上自衛隊レンジャー隊員の井筒高雄さん(45)と戦時下の戦意高揚プロパガンダに詳しい編集者の早川タダノリさん(40)に聞いた。

自衛隊の現実無視


 与党合意を受けた記者会見。「自衛隊が地球の裏側まで行き、戦闘することになるのではという不安が国民にある」との質問に高村、北側両氏は新たに定めた「武力行使の3要件」を引き、答えた。

 高村「新3要件に合致すればそういうこともあり得るが、地球の裏側で合致することがあるかといえば、ちょっと思い浮かばない。私が考えつかないんだから、なかなかないだろうね」

 北側「自衛権行使の局面が世界中であるかというと、そうは思えない。それぞれ法律の中に要件、手続き、目的が書かれており、それに該当しなければできない」

 同盟国への武力攻撃により日本の存立が脅かされ、国民の生命などが根底から覆される明白な危険があること-などとする新3要件。強調される「限定的」のニュアンスに井筒さんは「現実を知っているのか」と首をひねる。

 新3要件やPKO活動の条件をいくら法律の中に盛り込んだところで、派遣先の現場で銃弾が1発放たれれば銃撃戦が始まる。今回の法整備で自衛隊の活動領域は確実に広がる。後方支援や補給にとどまると言っているが、相手からすれば一体的に見える。さらに言えば、実戦経験豊かで世界最強の米軍と比べて貧弱な自衛隊こそが標的になる。それが戦争の現実だ。

 自衛隊はこれまで専守防衛に徹することを前提に自衛官を育成し、装備を充実させてきた。レンジャーなどの精鋭の特殊部隊は陸自14万人全体の中で5千人ほどしかいない。イージス艦も米軍の60隻に対し自衛隊は6隻。米軍と行動を共にすることを現実的に考えるなら、あと20隻は必要になるだろう。イージス艦は1隻2千億円で年間の維持費も40億円かかる。防衛費がどれだけ膨らむことか。

 自衛官の年齢構成もいびつになっていて、最前線で戦力となる10代、20代前半の陸自隊員の充足率は約72%とほかの階級に比べ2割ほど低い。こうした自衛隊の内実をどれだけ把握した上で法整備しているのだろうか。


 質問は「歯止めを利かせることはできたか」と「平和の党」を掲げる公明党の役割にも及んだ。

 北側「主張は相当盛り込めた。自衛隊の派遣が広がることは間違いありませんので。その安全性確保の問題をどう仕組みとして取り入れていくか。相応の規定は盛り込むことができたと思っております」

 井筒さんはやはり首を振る。

 現場ではどこからが後方支援で、どこから紛争状態だと、明確に線が引けるわけはない。いつでも、どこまでも派遣できる法律を定める以上、自衛隊員の命を守りきることなどできない。政治は外交努力を尽くし、軍事でない側面で努力すべきだ。

平和の変容語らず


 早川さんが引っ掛かりを覚えるのは、法案に盛り込まれた「平和」。その2文字を口にした途端、誰もがうなずき、思考が止まるマジックワード。それは会見冒頭、高村氏の言葉にも現れた。

 高村「皆さんお疲れさまです。平和安全法制全体、治安出動、海上警備行動など迅速に手続きできる法案の閣議決定に向け、与党協議会として一応了承いたしました」

 「平和安全関連法案」という名称は戦時中に侵略を正当化した「東洋平和の樹立」「東亜新秩序」を彷彿(ほうふつ)とさせる珍妙なものだ。

 法案や一連の議論には中身のない、欺瞞(ぎまん)に満ちたこうしたマジックワードが数多く盛り込まれている。

 最たるものが、安保法制を改定する理由とされている「安全保障環境の変化」だ。具体性がない。

 東アジアの安全保障環境に変化をもたらした最大の出来事は2012年の尖閣諸島国有化計画のはずだ。自らまいた種なのに、改定の必要性は自明のものとして議論が進んでいる。

 法案にある「国際社会の平和と安定」というスローガンも怪しげだ。これまでの国連平和維持活動(PKO)協力法では国連の下での「平和」だった。今回は国連が一切出てこない。やはり、この20年間の変化が「安全保障環境の変化」という言葉で片付けられ、平和がどう変容したのか誰も語ろうとしない。「事態が緊迫している」「不安定要因がある」という言葉だけ押し通そうとしている。


 井筒さん同様、高村氏の「(自衛隊が地球の裏側で武力行使する可能性について)考えつかない。私が考えつかないんだから、なかなか考えつかないだろうね」との発言に早川さんは欺瞞を見る。

 とぼけていると感じる。集団的自衛権の行使をできるようにし、地理的制約を取り払い、恒久法をつくるのも、01年の9・11以降に米国がアフガニスタンやイラクでやってきたことを日本もできるようにするためだ。戦争の形態が変化し、地域的不安定要因をとにかくたたく。それに日本も乗っかるということだ。

 それなのに、先行して改定された日米防衛協力指針(ガイドライン)もそうだが、今回の改定の目的は離島奪還や領土をめぐる紛争が勃発した際に米軍に助けてもらうため、という雰囲気が巧妙に醸成されている。


 

いづつ・たかお 1969年東京生まれ。元陸上自衛隊レンジャー隊員。PKO協力法成立翌年の1993年に「自国の防衛と無関係の国へ銃器を担いで送り込まれるのは理不尽」と依願退職した。

 

はやかわ・ただのり 1974年生まれ。フィルム製版工などを経て編集プロダクション経営。戦時下の戦意高揚プロパガンダ資料を収集。著書に「神国日本のトンデモ決戦生活」(合同出版)など。

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