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自動車運転処罰法施行1年 悪質運転 撲滅半ば

社会 | 神奈川新聞 | 2015年5月9日(土) 10:42

ひき逃げ事故で命を落とした長男悟さんの遺影の前で、悪質運転の撲滅を訴える祝部さん夫妻=茅ケ崎市
ひき逃げ事故で命を落とした長男悟さんの遺影の前で、悪質運転の撲滅を訴える祝部さん夫妻=茅ケ崎市

 飲酒などの悪質運転による事故の罰則を強化した「自動車運転処罰法」が施行され、20日で1年となる。飲酒運転の摘発やひき逃げの発生は減少しているものの、悪質運転で掛け替えのない命を奪われた遺族には、運用状況は立法趣旨に照らしてなお不十分と映る。悲劇を繰り返さないためにも、「司法の変化」を求めている。

 同法では、従来の「危険運転致死傷罪」の適用範囲が広がったほか、飲酒や薬物の影響で事故を起こした後、発覚しないように逃げるなどした行為を罰する「発覚免脱罪」が新設された。

 県警によると、昨年6月から今年3月末までに、県内の飲酒運転の摘発件数は824件で、前年同期に比べ278件減少した。ひき逃げ事件の発生も同102件減の476件。このうち死亡ひき逃げは2件減の6件となっている。

 県警幹部は「厳罰化の流れもあり、昨年の法改正前から飲酒運転もひき逃げ事件も減少傾向にある」とした上で、「今回の法改正の影響がどこまであるかはまだ分からないが、さまざまな取り組みで、悪質運転をゼロにしたい」と話す。


 「件数は減っても、まだ悪質運転はなくなってはいない」。施行後の現状をそう受け止めるのは、悪質なひき逃げ事件で長男悟さん=当時(25)=を亡くした祝部(ほうり)滋さん(65)=茅ケ崎市=だ。遺族団体のメンバーとして、抑止力を高めるために厳罰化を求めてきた。

 新法施行は、遺族にとって悪質運転撲滅への光明となるはずだった。だが、厳罰化の趣旨に見合わない運用もみられると指摘する。

 その“典型”が、昨年7月に北海道小樽市で4人が死傷したひき逃げ事件だ。

 加害者の男の呼気からは酒気帯び運転の基準の3倍超のアルコールが検出されていた。だが、札幌地検は危険運転致死傷罪の適用を見送り、法定刑がより軽い過失致死傷と道交法違反(ひき逃げ、酒気帯び運転)の罪で起訴した。「アルコールの影響で正常な運転ができずに事故を起こしたと認定することが困難」との理由だった。

 「法律は変わったのに、司法は変わっていない。過去の判例に縛られている」。そう感じた祝部さんと妻美佐子さん(64)は遺族と連携し、札幌市で行われた起訴罪名の変更を求める署名活動に参加。起訴から3カ月後、危険運転致死傷罪に訴因変更された。

 「全国的に報じられた事件ですら、遺族が声を上げてようやく起訴罪名が見直された。従来と変わらずに処理されている事件も多いのでは」。美佐子さんは危惧する。

 夫妻が声を上げ続けるのは、悟さんの命を奪った男に対し、犯した罪に比べて「余りにも軽い刑罰」(美佐子さん)しか下されなかったとの思いが強いからだ。

 悟さんは2002年4月、勤務先の福祉施設からバイクで帰宅途中、対向車線をはみ出してきた乗用車に衝突して亡くなった。

 運転していた男は現場から逃走。5日後に逮捕され、「事故前に飲酒していた」と自供したが客観的な証拠が得られず、危険運転致死罪も酒気帯び運転も適用されなかった。

 窃盗罪などにも問われた男に対して言い渡された判決は、懲役6年(求刑懲役9年)。“相場”ともいわれる「求刑の八掛け」にすら届かなかった。

 夫妻をはじめ全国の遺族が続けてきた署名活動が実り、厳罰化が進み、「逃げ得」を許さない発覚免脱罪も制定された。

 これで、悪質運転の撲滅策は十分だろうか。

 祝部さん夫妻は今、必要なのは「法の趣旨に見合った適正な判決が下され、その運用状況が周知されること」だと考えている。重大事故につながる飲酒運転も、被害者の救命可能性を下げるひき逃げも、「基本的にはドライバーの意識で防げる犯罪」だからだ。

 自分たちと同じように悲しむ遺族や被害者を再び生まないことが、二人の願い。だからこそ、検察庁と裁判所の変化に期待を寄せている。


◇県内摘発は5人 「逃げ得」防ぐ免脱罪

 自動車運転処罰法となって新たに盛り込まれたのが、飲酒運転で事故を起こしながら、逃走など飲酒の証拠をなくす行為を罰する「発覚免脱罪」だ。

 警察庁によると、昨年5月の施行から昨年末までに同罪で摘発されたのは72人。うち死亡事故での摘発は5人だった。

 県内での摘発は今年3月末までで5人で、いずれも負傷事故だった。神奈川新聞社のまとめでは、2人が実刑判決(1人は控訴)、3人が執行猶予刑になった。

 横浜市旭区で昨年9月に起きた事件では、塗装業の男(32)がワゴン車で歩行者をはねて重傷を負わせながら逃走し、6日後に出頭した。県警は付近の聞き込みや防犯カメラの解析から、男が事故前に現場近くの飲食店を訪れていたことを確認。ただ、男が事故前の飲酒を否認したこともあり、逮捕容疑は自動車運転処罰法違反(過失致傷)と道交法違反(ひき逃げ)にとどまった。

 県警が一緒に食事をした知人から事情を聴くなど捜査を続けたところ、男は「うそをつき続けるのに疲れた」と、飲食店での飲酒を自供。店の売り上げ記録や供述などの証拠を積み上げ、発覚免脱罪と道交法違反(ひき逃げ)の罪で起訴した。裁判では、飲酒の発覚を免れるため、男が出頭前に知人や飲食店の店長に口裏合わせを頼んでいたことも明らかにされ、男は今年1月、懲役2年4月の実刑判決を言い渡された。

 県警の捜査幹部は「必要な捜査を適切に行うことで、被害者の思いや県民の期待に応えたい」と話している。 

 ◆発覚免脱罪 酒や薬物を摂取して事故を起こした後、証拠をなくすために重ね飲みをしたり、逃走したりする犯罪。昨年5月に新設された。最高刑は懲役12年で、道交法のひき逃げとの併合罪での最高刑は懲役18年。従来は飲酒運転で事故を起こしても、逃走などで飲酒の証拠をなくせば刑罰が軽くなる「逃げ得」の問題があった。飲酒運転による死亡事故の場合、危険運転致死罪(上限懲役20年)が適用される可能性があるが、飲酒の証拠をなくせば過失致死とひき逃げとなり併合罪でも上限が懲役15年と量刑差が大きく、ひき逃げを誘因する一つとされていた。

 
 

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