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「慢性疲労症候群」の実態とは 周知と支援不可欠

社会 | 神奈川新聞 | 2015年5月6日(水) 10:18

初の全国調査の結果について会見する(左から)天野恵子医師、遊道和雄センター長、篠原三恵子さん=東京都千代田区の衆院議員会館
初の全国調査の結果について会見する(左から)天野恵子医師、遊道和雄センター長、篠原三恵子さん=東京都千代田区の衆院議員会館

 頭痛、筋肉痛、激しい疲労、集中力の低下などが長期間続き、健全な社会生活が困難になる疾患「慢性疲労症候群」(別称・筋痛性脳脊髄炎)。聖マリアンナ医科大難病治療研究センター(川崎市宮前区)の全国調査では、日中の半分以上が寝たままの重症者が3割に上るなど深刻な実態が明らかになった。発症要因の解明のほか、患者への支援、社会への周知の必要性が強く示された。


重症が3割


 日常生活で直面している困難さを聞いたこの調査によると、日中の半分以上が寝たままで、介助が必要という重症の人が約30%、通常の社会生活や軽作業は不可能などの中等度も約35%に上った。症状では、約90%が肉体的・精神的疲労、睡眠障害、約80%が広範な筋肉痛や体温調節障害を訴えた。光や音に対する過敏症やリンパ節の痛みも約70%であった。

 通院後に寝込んでしまう人は全体で約75%。家事をしただけで、その後に寝たきりになってしまう人が軽症でも約45%、全体では約70%に上る。無理をしたり、気圧や季節の変化、ストレスがあったり、休養ができず、睡眠障害などがあったりすると症状が悪化した。

 中でも深刻なのが、子どもたちの患者だ。20歳未満の発症は全体の約20%を占め、発症時に小中学校、高校、大学、専門学校に通学していた人は約25%に上る。うち、通学を続けられたのは半数以下で、子どもたちの教育の機会が奪われていた。

 どのようなことで困っているかと聞くと、最も多かったのが「症状が耐えがたい」、次いで「専門医がいない」。終わりの見えない厳しい症状に苦しむ患者の姿が浮かび上がった。


社会で孤立


 日常生活では、重症、中等度の人のほとんどは働けず、働いている人は全体の約30%にすぎなかった。重症、中等度の人は家事も困難で、家事の負担は約55%が母、約35%が配偶者、約15%がヘルパーに頼んでおり、家族の負担の大きさも分かった。

 一方で、障害年金の受給は全体で約35%。重症で約70%だが、中等度では約25%、軽症で約10%だった。身体障害者手帳の取得も全体で約15%にとどまっていた。「社会的孤立」「経済的問題」「病気への無理解」「仕事ができない」など、生活上の困難を訴える声が多く寄せられ、必要な社会福祉サービスを受けられていない状況も浮き彫りになった。

 行政への要望でも、病気の研究、病気の認知のほか、医療費助成、福祉サービス、障害年金の対象にしてほしいとの声が多く上がった。

 また、半数以上が「慢性疲労症候群」という病名の変更を求めた。病気の実態について社会の認知が進んでいないうえ、疲労の蓄積から起きる「慢性疲労」と混同され誤解されやすく、深刻な病状の理解を妨げているためだ。


地域に偏り


 調査は全国が対象だが、患者の地域分布は、関東49%、近畿16%、中部14%に対し、東北が3%と大きな偏りが生じた。調査協力について患者への周知の問題も考えられるが、一つの要因と推測されるのが、医療機関の知識、認知の不足だ。きちんとした診断が行われず、うつ病やほかの病気と診断されている可能性が否定できない。実際、調査結果報告会の場で、仙台市の男性患者は「東北には診てくれる医者がいない」と苦境を訴えた。

 発症に関与したと考えられる要因(重複あり)を聞いたところ、76人が感染症、68人が発熱、58人が過労・ストレス・環境変化など、21人が手術と回答した。「思い当たらない」が51人。ウイルス感染や何らかの炎症との関係を強く示唆していた。

 今回の調査結果について遊道和雄センター長は「海外の報告と同様、日本でも20%から30%が重症と初めて確認された。中等度、重症では日常生活の困難度も顕著で、支援の必要性が明らかになった」とした。「日本にはこの病気の学会がないので正式な専門医はいない。関心を持っている医師も少ない」と指摘。医療機関の対応も課題だとした。


福祉サービス充実を


 調査結果について患者会「筋痛性脳脊髄炎の会」の篠原三恵子理事長は「日本でも患者が深刻な状況にあることが証明された。これまで病気が理解されず、福祉サービスを受けられない暗黒の時代が続いてきた。重症患者は福祉がないと生活できない。一人でも多くの人が福祉サービスを受けられるようになってほしい」と語った。

 会では、患者の深刻な現状に対し社会的支援が不十分だとして「客観的診断基準の確立」「今後の障害者総合支援法の見直しにおける福祉サービスの充実」を求める請願を国会に提出している。


和温療法に注目


 慢性疲労症候群の新たな治療法として「和温療法」が注目されている。衆院議員会館で4月22日に行われた調査結果報告会では、静風荘病院(埼玉県新座市)の天野恵子医師(循環器内科)が治療効果を説明した。

 和温療法は、元は慢性心不全患者のための温熱療法。乾式遠赤外線サウナを用いて低温サウナ浴を行った後、安静保温を行う。深部体温(体の内部の体温)を上げることで「全身の血管機能を改善し、自律神経やホルモンの働きを是正し、自己免疫や生体防御機能を活性化することが考えられる」という。

 治療例では「一日のほとんどを横になっていた重症の30代女性が、漢方薬と入院による和温療法で社会復帰することができた」という。昨年の国際温泉気候学会では、和温療法を行った慢性疲労症候群患者9人のうち、7人が改善したとの発表も行った。

 天野さんは「漢方薬の併用やマッサージなどを取り入れることで、順調に生活の質を改善することができる」とした。


◆慢性疲労症候群 中枢神経系の機能異常や調節障害がおもな病態。発症要因は不明だが、ウイルス感染との関係や脳内の神経炎症の存在などが指摘されている。治療法は確立していない。日本の推定患者数は24万~38万人。難病法の難病には指定されていない。欧州やカナダなどでは「筋痛性脳脊髄炎(ME)」と呼ばれてきたが、後に米国で「慢性疲労症候群(CFS)」と命名された。診断基準の幅や慢性疲労という言葉をめぐって国際的な議論があり、「慢性疲労症候群」のほか「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)」「筋痛性脳脊髄炎」との名称も使われている。


◆慢性疲労症候群患者の日常生活困難度調査 厚生労働省の2014年度事業。委託を受けた聖マリアンナ医科大難病治療研究センターが昨年9月からことし1月まで実施した。全国の患者に呼び掛け、診断基準などを満たした251人(平均年齢41.8歳、男56人、女195人)について、日常生活の支障度、発症要因、経過、福祉支援受給状況、ニーズなどを調べた。通院者以外を含めた全国実態調査は初めて。4月22日、衆院議員会館で調査結果報告会が行われた。

 
 

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