
日本人の2人に1人がかかる国民病、がん。県は3月、がん患者の最新データ(2010年)を発表した。それによると最も多い胃がん患者が減り、大腸がん、肺がんが増える傾向にある。確かなデータから傾向を読み解き、対策につなげようという試みも始まろうとしている。
胃がんは減少傾向
県内のがん患者のうち減少傾向が著しいのが、胃がんだ。男性10万人当たりの罹患(りかん)率は依然トップだが、1972年の74・8人から2010年は41・2人と大幅に減っている。
一方、男性2位の罹患率となっている肺がんは首位をうかがうまでに増加を続ける。72年は21・6人だったが、2010年は35・3人に伸びた。
同様に、結腸がん(大腸がん)は6・5人から29・7人に増え、こちらは肺がんを上回る伸び率をみせている。
女性も同じ傾向にある。女性の罹患率トップは乳房がん(乳がん)だが、2位の胃がんが急激に減り、子宮がんと結腸がんが胃がんを上回るようになった。
データの収集や分析を行ってきた県立がんセンター臨床研究所の今井浩三所長は「胃がんが減少した主因は、胃にすみつくピロリ菌の感染者が衛生状況の改善で減ったことと、胃からの除菌法が広まったこと。大腸がんの増加は、肉や油の多い食生活が広がっていることが主因と考えられる」と分析する。
肺がんの増加については「喫煙者の高齢化が要因の一つ」と指摘。女性の乳がんや男性の前立腺がんが増えていることには「食生活の西欧化が進み、肉を食べる機会が増えたことが要因の一つ」とみている。
がんの治りやすさの目安となる5年生存率をみてみる。
がんと診断された人のうち、5年経過した時点で生存している人数の割合を示す。07年にがんと診断された人が12年まで生きていた率は64・5%。03年にがんと診断された人の5年生存率は59・7%で、4・8ポイント上昇した。
07年にがんと診断された人をみると、最も生存率が低いのは膵臓(すいぞう)がんで、5年生存率は9・5%。次いで低いのが胆のう・胆管がんで24・3%。「いずれも初期に自覚症状が少ない上、発見が難しい。病状が悪化してから見つかることが多い」と今井所長は説明する。
一方、生存率が最も高いのは前立腺がんで95・8%。甲状腺がん93・1%、乳がん92・3%、皮膚がん91・2%と続く。
また、がんと診断されたのは、男性では40代以上が全体の98・3%、女性でも40代以上が94・9%を占めた。
こうした分析が可能になるのは、県が1970年から続けてきた「地域がん登録」という制度で集められている患者データがあるからだ。医療機関を通じて県立がんセンターで集約され、分析が行われてきた。
ただ、情報を提供できる体制が整っていないことを理由に、提供を拒む医療機関も多い。医療機関から情報提供がないために登録されておらず、死亡時に市町村からの情報提供でがん患者だったことが分かる人の割合は、2010年で18・2%だった。
また、情報を集めている自治体ごとに情報の形式が異なることがあるため、全国的な比較が難しいことも、課題の一つとなってきた。
登録義務化来年スタート
がん患者に関する情報の提供をすべての病院に義務付け、全国一元で管理する「全国がん登録」制度が来年1月にスタートする。
患者の氏名や生年月日のほか、発見時のがんの進行度やどのような治療が行われたのかなどが細かく記録され、集約される。患者は自分と似たような病状の人の治療傾向や生存率をより正確に知ることができ、がん研究に役立てられる。
全国がん登録は2013年12月に成立した「がん登録推進法」に基づき、16年1月以降にがんと診断された全患者を登録する制度。県が任意で情報を集めてきた「地域がん登録」とは異なり、患者をがんと診断した医療機関は都道府県に報告しなくてはならなくなる。任意のため集まるデータに限界があった従来の課題は解消される。
対象は全国の病院と、情報提供を希望し都道府県が指定する診療所。県内では、県立がんセンター(横浜市旭区)に情報が集められ、情報をデータ化した上で、センター内の専用回線を用いて、国立がん研究センター(東京都)に送る。
国立がん研究センターでは、全国から集まった情報を分析し、19年3月までに2016年分の集計結果を発表する。データは営利目的に利用できず、研究に利用される場合も個人が特定できないように匿名化される。特に個人情報が漏えいしないよう、管理にもさまざまな規定が定められている。
収集する情報の種類や登録される医療機関はこれから決められる。登録は義務化されているために患者は登録を拒否できず、自分のデータの開示請求もできない。
県立がんセンター臨床研究所の今井浩三所長は「効果的な治療方法や地域ごとの罹患率の把握など、がん対策の基礎情報を以前に比べて正確に把握できるようになる。研究に役立つだけではなく、行政のがん予防政策にも生かすことができる。新たな情報を国民病を克服するために活用していきたい」と話している。
