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3人の日本人に聞く
未知の脅威に何を思う いまだ続くエボラ熱 

社会 | 神奈川新聞 | 2015年4月9日(木) 15:37

念入りに消毒するなど、感染症拡大防止の手順を確認した訓練=客船「ロイヤルウイング」船内
念入りに消毒するなど、感染症拡大防止の手順を確認した訓練=客船「ロイヤルウイング」船内

 世界がエボラ出血熱の脅威を知り、1年がたつ。猛威を振るったギニア、シエラレオネ、リベリアの西アフリカ3カ国を中心に死者は1万人超。各国の支援で感染拡大のペースは衰えたものの、終息へは予断を許さない状況が続く。遠くアフリカの大地で「見えない敵」と戦った日本人はいま、何を思うのか。

 空気感染はしない。うつるのは感染者の血液や体液に触れた場合のみ。なのに患者は爆発的に増えていった。

 原因とされたのは、埋葬前に遺体を洗って清める現地の風習だった。それをやめさせる必要があった。

 昨年3月、シエラレオネに赴任した国連児童基金(ユニセフ)の開発コミュニケーション専門官、櫻井有希子さん(39)にはエイズ予防に取り組んできた経験があった。

 対策を効果的に伝えるために啓発ポスターを作成した。現地の人々は字が読めないだけではない。「西洋人っぽい人を描いても自分たちのことと認識してもらえない。アフリカの人々の顔、服装を描くのがポイント」

 土着の風習をよそ者がやめさせるのはやはり簡単ではなかった。「単に、あなた黒い服を着ては駄目よと言われても、私は黒い服が好きなんだと返されるのと同じ。信じてなどもらえない」

 村長や宗教指導者といったリーダーを丁寧に説いて回り、納得してもらった上で知識を身に付けてもらった。住民の間から「感染が収まるまでは一時的に風習を変えよう」という意見が出るようになり、対策は浸透していった。

 当初、対策の先頭に立つべき現地政府の職員や同僚からも流行地域に行きたくないという声が出ることがあったという。では、自身に恐怖はなかったのか。「多くが、われわれがやらずに誰がやるのかという使命感を持って現場に赴いた。友人や知人が亡くなって悲しむ仲間もいたが、悲しいこの状況を早く終わらせたいという思いが私たちを動かしていた」

 

存在意義


 カリブ海のドミニカ共和国にあるユニセフ事務所で副代表を務める青木佐代子さん(43)のもとに支援を求める「SOS」のメールが届いたのは昨年10月のことだった。津波被害を受けたインドネシアや内戦の続くコンゴで学校再開の支援に携わった経験を買われ、西アフリカ入りを打診された。

 エボラ熱は人々の命だけでなく子どもから教育の機会を奪ってもいた。その数500万人。学校での感染拡大を防ぐため、西アフリカ3カ国では約2万4千校が休校になった。

 学校の再開に向け、訪れる人の体温を測ること、手洗いを徹底すること、患者対応は近くの保健センターが担うことの3原則を各国で徹底させた。

 ギニアでは1月に学校が再開。校長が門の入り口で子どもたちを笑顔で迎え、体に触れなくても計測できる特殊な体温計で一人一人を測っていた。子どもたちはせっけんを使って手を洗い、その様子を保護者が心配そうに見守っていた。

 校長が「エボラ熱は怖くない」「感染した友達をいじめてはいけない」と語っていたのが印象的だった。学校の姿勢が子どもたちから家庭や地域に伝わると「学校はできることをやってくれている」という認識が広がり、多くの子どもたちが学校に戻ってきた。リベリアは2月、シエラレオネは今月中に全校を再開する。

 「学校再開は社会が落ち着いているという象徴的な出来事になった。感染予防知識を地域に広め、家族を失った子どもたちの心のケアもできる」

 地域における学校の存在の大きさを再確認する経験となった。

 

続く戦い


 アフリカ西部のガーナに本部を置く国連エボラ緊急対応支援団(UNMEER)に日本政府から派遣された外務省アフリカ第1課交渉官、小沼士郎さん(47)は「ようやく流行を終息させる段階に入った」とほっとした表情をみせる。

 1週間の患者発生数はピーク時には3カ国合計で3千人を超えていたが、現在は100人を割るまでに沈静化してきた。

 医師免許を持つ異色の外交官。昨年12月から3月までシニアアドバイザーとしてUNMEERトップの事務総長特別代表を戦略面から補佐する役割を担った。治療センターにシーツやモップなどの物資が大量に必要になることや患者のデータ管理者の配置が重要なことなど、医療の知識を持つがゆえの視点で対策を打ち出した。

 「臨床医には向いていなくて、研究も嫌い。もっと多くの人の役に立ちたいという思いで外交官試験を受けたが、その思いがアフリカでかなった」

 しかし、安心しているばかりではない。「リベリア、シエラレオネでは感染拡大は収まりつつあるが、ギニアでは地域に根付いた風土病になりつつある」。地域の協力が得られず、遺体に触れる埋葬が続いているからだ。「感染者が散発的に発生しており、まだ道半ば。油断はできない」と表情を引き締める。

 異国で奔走したそれぞれの「戦い」は続く。

 青木さんは3月末に一時帰国し、再びドミニカへ。子どもの権利擁護に奔走する日々に戻る。インドの独立を指導したガンジーの「見たいと思う世界の変化にあなた自身がなりなさい」という言葉を引き合いに「これからも世界のために一歩踏み出す人になりたい」

 未知の経験がもたらす新しい自分との出会い-。

 櫻井さんはアフリカでの日々から得られたものを問われ、答えた。「自分にできることに限りがあり、現実を前に無力さも感じた。でも小さな力が集まったときの爆発力は素晴らしいと思えた。自分が思えば物事は変えられる。そう考えられるようになった」

エボラ出血熱 エボラウイルスが原因の感染症。高熱や頭痛、下痢や皮膚などからの出血を伴う。発症までの潜伏期間は2~21日程度で確立した治療法やワクチンはない。野生のコウモリやサルがウイルスの宿主とされ、人間同士では症状のある患者の血液や体液などを介して感染する。1976年にザイール(現コンゴ)などで初めて感染が確認され、小規模な感染が報告されてきた。西アフリカのギニアで2013年12月に始まった今回の流行は14年3月に集団感染が世界保健機関(WHO)に報告され、リベリア、シエラレオネなどに拡大。WHOによると、4月2日までに感染者は2万5178人、死者は1万445人に上った。

 
 

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