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時代の正体〈80〉制度存廃 自問のとき

社会 | 神奈川新聞 | 2015年4月8日(水) 11:38

アムネスティ・インターナショナルがまとめた死刑に関する報告を説明するヤン・ウェツェル上級政策顧問 =1日、参院議員会館
アムネスティ・インターナショナルがまとめた死刑に関する報告を説明するヤン・ウェツェル上級政策顧問 =1日、参院議員会館

 国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは世界の死刑に関する最新の報告書を公表した。2014年に死刑執行が確認されたのは日本を含む22の国・地域。同団体は「死刑執行国は世界の1割にすぎず、死刑廃止が世界の潮流だ。日本はそこから遅れ、孤立しつつある」と指摘する。

 来日したアムネスティ・インターナショナル上級政策顧問、ヤン・ウェツェルさんは問い掛ける。

  「日本を含め、死刑を採用している国々は自問すべきときだ。世界の歴史の中でより少なくなりつつある少数派に属し続けたいのか、残虐で非人道的な刑罰を終わらせた圧倒的多数派に属したいのか、その決断が迫られている」

 1日、東京・永田町の参院議員会館。記者会見で報告された14年の統計データが、日本を含めた死刑執行国・地域の孤立を浮かび上がらせる。

 あらゆる犯罪について死刑を廃止している国・地域は98、戦時下での犯罪など例外的な犯罪を除いて廃止しているのは7、廃止はしていないが過去10年間、執行を停止しているのは35。法律上と事実上、つまり実質的に廃止しているところは140となり、世界の約7割を占めることになる。

 対する死刑制度の存置国・地域は58。うち実際に執行されたのは22。存置している中でも少数派ということになり、中国、イラン、サウジアラビア、イラク、米国、そして日本が名を連ねる。

 昨年、フィジー、韓国、タイで廃止に向けた議論が始まり、フィジーはことし2月に全面廃止国に転じた。「中国、台湾、ベトナムといった国々でも現在論じられているのは死刑をいかに減らしていくかであり、現状維持についてではない。長期的トレンドは明らかで、死刑は過去のものであるという国際世論が台頭している」。同団体東アジア事務所で国際人権法の専門家として人権問題に取り組むウェツェルさんは力説する。

 ■再考
 日本国内では死刑制度容認の声は根強い。内閣府が1月に発表した「基本的法制度に関する世論調査」によると「死刑もやむを得ない」と容認したのは80・3%で、「死刑は廃止すべきである」と否定したのは9・7%だった。

 だが、例えば米国は日本と並んでG8や経済協力開発機構(OECD)加盟34カ国で死刑を執行した例外的な先進国だが、年々執行数は減り、死刑と距離を置く州が増えていることがどれだけ知られているだろうか、とウェツェルさんは問う。「死刑に関する情報や知識が増えるほど死刑に対する支持は減るという調査研究もある」

 その米国だが、2010年と14年の比較では、執行人数は46から35へ、執行州は12から7へとそれぞれ減少。執行された7州の内訳をみるとテキサス、ミズーリ、フロリダの3州が全体の8割を占める。「米国でも実際に執行している州は少数派ということだ」

 死刑制度自体も07年から13年の間に6州で法的に廃止された。「興味深いことにオレゴン、コロラド州の知事が執行の一時停止を宣言した後、選挙で再選した。死刑に反対の政治家は有権者に厳しい目を向けられるという通説が誤っていることを示している」

 再考の流れの背景にあるのは消せない冤罪の可能性と犯罪抑止力への疑問だと、ウェツェルさんは言う。「死刑により強い抑止力があるわけではないと示す調査研究は数多い。犯罪発生率と死刑の間に相関関係はないことを含め、日本でも率直でオープンな議論が起こることを望む」。そしてこう言い添えた。「私自身の解釈では、人々はより社会の安全を求めているのであって、より多くの殺害を望んでいるわけではないはずだ」

  ■深層
 14年に世界中で死刑を執行されたのは少なくとも607人で、前年比で22%減った。一方でテロ対策を口実に死刑を科す動きが中国やパキスタンなどで目立つという。

 過激派組織「イスラム国」に自国パイロットを焼き殺され、その後に武装勢力の2人を処刑したヨルダンを引き合いにウェツェルさんが言う。

 「残虐な殺害は非常に大きな怒りを国民の間に起こす。だが、いかにむごいものであっても、処刑が答えになるとは思わない。やはり、懲役刑より死刑の方がテロに対して抑止力を持つという証拠はない」。つまり、と続けて「為政者にとっては実際に国民に安全をもたらすというより、単により厳しく対応しているように見られることが重要なのだ、ということを示している」。

 人を殺してはいけないという法律がありながら国家が人を殺す矛盾がここにのぞく。

 「テロリストは死にたいと思っている。死刑を適用するのは望むものを与えることになる。そうして彼らは殉教者としてあがめられ、新たなテロリストを引き込むリクルート効果も生じさせる」

 ウェツェルさんは最後まで警鐘を鳴らすことをやめなかった。「死刑は力を誇示することにとどまるだけで、それ以上の何かをもたらすことはないだろう」。問いはつまり、そうであるならなぜ、この国は死刑を手放すことができないのかという深層へつながっている。

 ◆釈放から1年の袴田さん 拘置所の日々色濃く

 獄中から半世紀近く冤罪(えんざい)を訴え続け、再審開始決定で釈放された袴田巌さん(79)。会見に同席した姉秀子さん(82)の近況報告に死刑囚としてとらわれた日々の影が色濃くにじむ。

 3月27日で釈放されて1年になった。「おかげで拘置所から生きて出られた。でもただ生きていたというだけだった」。秀子さんは複雑な心境を吐露した。

 以前からみられた拘禁症状は回復するかに思えた。「能面のようだった表情」に笑みが浮かび、秀子さんの買い物についてくるようになった。が、冬場にかぜをひくと外出を渋るように。「電波をキャッチしないといけないから家にいると言う。きのうもチンギスハンがどうのこうのと。意味が分からない」

 秀子さんは言う。「そんな巌でも『国家が処刑するのはもってのほか。死刑は絶対反対』と言う。それは相当つらい目をみたからだと思う。私もだから絶対反対」

 袴田さんは1966年、静岡県清水市(現静岡市清水区)で一家4人を殺害したとして逮捕され、死刑が確定。その後のDNA鑑定の結果から、犯人が着ていたとされた衣類が袴田さんのものでも犯行着衣でもないと認定され、静岡地裁は捜査機関の証拠捏造(ねつぞう)の可能性も指摘した上で昨年3月27日、「犯人であると認めるには合理的な疑いが残る」として再審開始を決定した。静岡地検は不服として東京高裁に即時抗告。審理は続いており、再審は始まっていない。

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