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A型事業所の可能性〈上〉 障害者雇用の現場から

社会 | 神奈川新聞 | 2015年3月23日(月) 14:43

◇企業参入 期待と不安が交錯

 企業で就労するのが難しい障害者が雇用契約に基づいて働く就労継続支援A型事業所に注目が集まっている。とりわけ株式会社など営利法人の参入が増えていることに期待と不安が交錯している。障害者の就労を支援する企業や社会福祉法人、NPO法人が集まる全国組織「就労継続支援A型事業所全国協議会(全Aネット)」も発足し、A型事業所のあるべき姿を模索する動きも始まった。A型事業所の役割と可能性を探る。


 逗子市小坪のラビー小坪センターは20人の定員で弁当用の食材の下ごしらえを事業とする。手作り弁当を販売する株式会社バニーフーズ(鎌倉市材木座)が2010年に設立した障害者就労継続支援A型事業所だ。

 知的障害者、精神障害者らの利用者が体調に応じてさまざまなシフトで働く。大根やニンジンなどの野菜を刻み、シューマイやギョーザも作る。着実な仕事ぶりだ。

 働きだして3年目で「シューマイ作りのプロ」と頼りにされている統合失調症のOさん(39)は「助け合いながら伸び伸びとやっています」と笑顔をみせる。勤務は週5日、午後の4時間。「いい食材を使ってみんなと一緒に作っている。自分たちの弁当だという誇りがあります」

 Oさんは一般企業の障害者枠で働いたこともあるが長続きしなかった。「数合わせの感じがあった。社内にメンタル面のことで相談できる人もいなかった。ここでは病気を気遣ってもらえ、気軽に相談できる」。労働法規が適用されない就労継続支援B型事業所と違って最低賃金も出るので「やる気が出る」という。体調を安定させ、フルタイムで働けるようになるのが現在の目標だ。



■打開策

 バニーフーズが障害者福祉に取り組み始めたのは03年。当時社長だった高橋良治代表(68)が中小企業家同友会の活動で障害者福祉の重要性を知ったのがきっかけだった。従業員三十数人の会社だったが、知的障害者2人を雇用。「2人が一生懸命働く姿を見て社員が変わっていった。言い争いも多く殺伐とした雰囲気だった社内が助け合う優しい雰囲気になった」と予想外の効果もあったという。

 09年、A型事業所の設立に乗り出すことを決意。施設整備費などで約3千万円の借金を背負い、一時は社員のボーナスも出せなくなった。「みんなよく我慢したと思う」とは社員の一人。障害者は能力も個性もさまざま。通うだけで精いっぱいの人、トイレに入ったまま出てこない人、それでも最低賃金は払わなければならない。打開策は売り上げ増しかなかった。

 A型事業所は障害者を訓練、支援する職員の人件費などが公費(障害福祉サービス給付費)で賄われるが、新たに採用した若手社員が障害者を支え、会社全体を変える力になっていった。「それまではパートのおばさんと中高年のおじさんばかりの会社で新しい事業を手掛けることに否定的だった。若手社員の活躍と障害者の働く力で事業拡大に乗り出せた」

 12年には、2カ所目のA型事業所「ラパン大町事業所」(鎌倉市大町)も設立。利用者のためにグループホームもつくった。現在の障害者はバニーフーズの一般雇用を含め55人。新規採用の若手社員も10人以上を数え、バニーフーズの従業員、A型事業所の職員、利用者で計約120人体制になった。大口注文など顧客の多様な注文に取り組めるようになり、販路は拡大。弁当などの売り上げは3年間で約1・5倍に増えた。バニーフーズ、二つのA型事業所とも経営は安定した。


■可能性

 高橋代表は「もともと事業、マーケットがあるので、そこから障害者に合った仕事を切り出せる。賃金と障害年金で障害者も自立できる」と民間企業がA型事業所を設立する利点を強調する。

 ラビーがオープンした直後、ある福祉施設の運営者が見学に来た。「『うちの障害者の方がよっぽど優秀で仕事ができる』と言われ、では賃金をいくら払っているのかと聞くと月3千円だった。ラビーは絶対必要だと確信した」と高橋代表は言う。

 企業がA型事業所を経営することには「補助金頼みの経営にならないか。自主独立に反しないか」と企業側からの懸念もある。福祉の側の中には「障害者を企業本体で雇用するのが原則であり、福祉から雇用への流れに逆行する」という根本的な批判があるのも事実だ。

 だが、パートが集まらない労働力不足、円安による食材価格の高騰で疲弊している弁当業界にあって、バニーフーズは福祉に貢献しながら成長を遂げている。「企業によるA型事業所は人手が必要な分野、労働集約型の分野では大きな可能性がある」と高橋代表。人口減少社会を迎え、「障害者も中小企業も地域で生き続けたいと願っている。A型事業所は地域を元気にできる」と力を込める。

 高橋代表は2月に発足した全Aネットの理事に就任。民間企業と福祉の関係をどう考え、あるべき姿を提示し、A型事業所の健全な発展につなげられるか。模索は始まったばかりだ。

◇最低賃金確保に貢献

 障害者総合支援法は一般就労が困難な障害者が訓練や支援を受けながら働く場(福祉的就労)として、就労継続支援A型、B型などの就労系障害福祉サービスを設けている。事業所の人件費などは国などから障害福祉サービス給付費が支給される。利用者の賃金、工賃は事業の収入から払う仕組みだ。

 A型は事業所と利用者が雇用契約を結び、最低賃金など労働法規が適用される。障害がより重く雇用契約を結べない人が利用するB型には労働法規は適用されない。2014年3月現在、A型は全国2054事業所で利用者は3万6730人、平均賃金月額は13年度で約6万9千円。一方、B型は8465事業所で利用者は18万895人に上るが、平均工賃月額は約1万4千円にすぎない。

 A型は07年の148事業所(利用者2423人)から約14倍増。07年の経営主体は社会福祉法人90、NPO法人38、営利法人14などだったが、13年は社会福祉法人449、NPO法人415、営利法人823などとなり、A型の拡大に営利法人は大きな役割を果たしてきた。

 ただ、営利法人の一部には、確固とした事業もないまま助成金、給付費目当てで事業所を設立したり、利用者に十分な処遇をしないなど、不適切な事例も指摘され、全Aネット設立に結びついた。

【神奈川新聞】

 
 

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