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元経産省官僚・古賀茂明さん
時代の正体〈72〉「イスラム国」は問う(7)不戦国へ立ち返れ

社会 | 神奈川新聞 | 2015年3月5日(木) 17:38

古賀茂明さん
古賀茂明さん

 アイ・アム・ノット・アベ(私は安倍首相じゃない)-。過激派組織「イスラム国」による邦人人質事件の発覚直後、そう発言し安倍政権に警鐘を鳴らした人物がいる。元経産省官僚の古賀茂明さん。事件は2邦人が殺害されるという最悪の結末を迎えた。それから1カ月余、発言の真意を聞いた。

 イスラム国による人質殺害予告から3日後の1月23日、出演したテレビ朝日のニュース番組「報道ステーション」ではっきりと口にした。

 「私だったら“I am not Abe”というプラカードを掲げる」

 「いま政府批判をすればテロリストを利するだけ」といった空気の中、発言は反響を呼んだ。放送直後から賛否の声が局に寄せられ、インターネット上には発言をすべて書き起こしたサイトも登場した。

 「注目度が高い番組。もちろん考えた上での発言です。反響の大きさは予想以上でしたが…」

 真意をいま、こう話す。

 「これは単なる政権批判ではありません。安倍首相によって日本のイメージが根本的に変えられようとしていて、今止めなければ取り返しのつかないことになると考えました。安倍首相のやろうとしていることは日本人の気持ちではない、と」

■「確信犯」

 昨年12月3日、ジャーナリスト後藤健二さんの妻は、送られてきたメールで後藤さんが何者かに拘束されたことを知り、外務省に連絡を入れたとされる。

 日本人がテロリストの人質となっているのを知りながら、安倍晋三首相はなぜ中東諸国を歴訪し、イスラム国と戦う周辺各国への支援を約束したのか。

 「安倍首相は対イスラム国の有志連合の有力なメンバーになりたかったのだと思います。今国会の施政方針演説でも、世界の列強と肩を並べ、認められたいという安倍首相の願望が明らかにされました」

 米国にとってイスラエルやヨルダン、エジプトは政治的にも経済的にも重要な国だ。

 「人質事件の情報は米国にも伝わっている。そうした中で中東諸国を訪問し、支援を約束することは『いかに自分が戦っているか』を米国に見せる格好な材料になる。『米国とともに歩む日本』を見せたかったのでしょう」

 その姿勢を象徴したのが1月17日、安倍首相がエジプト・カイロで行った中東政策に関するスピーチだった。

 「日本の約束」として「ISIL(イスラム国)と闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」と発言したものだが、「最大の特色は、この一文から『人道支援』という言葉が抜け落ちている点。これでは、誰がどう見ても『戦争のための支援』としか読めないフレーズです」。

 これまで外務省が行ってきた中東政策には「絶対にどこかの国につくことはしない」という鉄則があったという。

 「注意には注意を重ねて『日本は戦争には関わらない』『政治的、軍事的な意味もなく、経済的利益を求めるものではない。人道支援だけだ』ということを丁寧に注意深く説明してきた」

 外務省のホームページにはヨルダンの英字紙ヨルダン・タイムズによる安倍首相のインタビューが掲載されている。そこでの安倍首相の発言は、以下のように紹介されている。

 「ISILと闘う周辺各国に総額で2億ドル程度の支援を実施し、また、中東地域全体に対して、『人道支援』やインフラ整備など約25億ドル規模相当の支援を行う」

 では、なぜエジプトにおける中東政策スピーチではその文字が消えたのか。

 「安倍首相は『日本は米国と一緒に戦います』『米国のオバマ大統領、日本は変わりました、見てください』と言いたかったのだと思います」

 ならば、安倍首相は自らのスピーチがどのような影響を与えるかについて理解していたことになる。

 「つまり、確信犯です。『日本がやろうとしているのは人道支援だが、イスラム国はそうではないと勘違いした』という書き方をする日本メディアもあったが、それは間違いで、むしろ安倍首相はそれを目指していたと思うのです」

■宣戦布告

 「安倍首相は拳を振り上げ『米国と歩む列強』としての日本を宣伝している。イスラム国は『宣戦布告された』と捉えたでしょう」

 「I am not Abe」に込められたのはだから、単なる政権批判ではない。

 日本国憲法の前文には記されている。

 〈日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するものであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した〉

 「日本はあらゆる国と仲良くし、それを通じて、世界平和に道を開くことを基本理念としている。これは、敵味方関係なく戦争の犠牲者の姿を世界に伝えようとした後藤さんの思いと重なる」

 湯川遥菜さんの殺害映像がインターネット上に流されたのは、安倍首相がカイロでスピーチを行った日から1週間後、後藤さんの殺害はその1週間後だった。

 「日本は戦争をしない国なんだと、われわれはそこに立ち返らないといけないと思う。安倍さんは有志連合に入りたい、アメリカと一緒なんだと言いたいかもしれないけれど、そんなことは憲法があるからできないはずなんですよ」

 報道ステーションではこうも発言していた。

 発言をめぐっては「官邸から局へ圧力がかかり、古賀氏の降板が決まった」との臆測も流れた。番組の出演についてはチーフプロデューサーと話し合い、2カ月先まで決めてきたが、現時点で4月以降の予定は白紙だという。

●こが・しげあき 1980年通商産業省(現・経済産業省)入省。産業再生機構執行役員、国家公務員制度改革推進本部事務局審議官などを歴任。2011年4月、東京電力の破綻処理策を提起した。その後、退職勧奨を受け同年9月に辞職。著書に「国家の暴走」「原発の倫理学」など。長崎県出身。59歳。

【邦人人質事件をめぐる経過】

1月16日 安倍晋三首相が中東歴訪へ出発。

  17日 安倍首相がエジプト・カイロで中東政策スピーチ。「イスラム国と闘う周辺各国に総額で2億ドルの支援を約束する」と発言。

  20日 イスラム国が後藤健二さん、湯川遥菜さんの殺害予告映像をインターネット上に流す。

  23日 古賀茂明さんが報道ステーションで「アイ・アム・ノット・アベ」と発言。

  25日 湯川さんを殺害したとする映像がネット上に流れる。

  29日 イスラム国が交渉期限を現地時間29日の日没までとするメッセージを流す。

2月 1日 後藤さんを殺害したとする映像がネット上に流れる。

     安倍首相が関係閣僚会議で「テロリストを絶対に許さない。罪を償わせるため国際社会と連携していく」と発言。

  12日 安倍首相が施政方針演説で「日本がテロに屈することは決してない。テロと戦う国際社会において日本としての責任を毅然(きぜん)として果たす」と発言。

【神奈川新聞】

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