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川崎・多摩川中1殺害
学校だけでは守れない

社会 | 神奈川新聞 | 2015年3月4日(水) 03:00

遺体発見現場には多くの人が献花に訪れた=3日午後3時25分ごろ、川崎市川崎区の多摩川河川敷
遺体発見現場には多くの人が献花に訪れた=3日午後3時25分ごろ、川崎市川崎区の多摩川河川敷

 川崎市川崎区の中学1年男子生徒(13)が殺害された事件で、17~18歳の少年3人が逮捕された。男子生徒は1月から学校に通わず、友人に「殺されるかもしれない」と相談したとされ、さまざまな形でSOSを発信していた。助けることはできなかったのか。専門家からは「非行や不登校などの問題を抱えている児童・生徒や家庭の支援には、学校と学校外の機関の連携が欠かせない」との指摘が上がる。

 捜査関係者によると、殺人容疑で逮捕された18歳の少年は男子生徒に全裸になるよう命令して多摩川で泳がせ、カッターナイフで首を何度も刺して殺したと供述している。男子生徒はこの少年から以前受けた激しい暴行を別の親しいグループの少年に相談していた。このグループが謝罪を求めて18歳の少年宅に押し掛けていた。少年は殺害の動機について「チクリやがったからやった」と供述しているという。

 では殺害にまで至った背景には何があるのか。法政大の越智啓太教授(犯罪心理学)は近年、少年グループの暴力が内向きになる傾向があるとみている。

 「非行少年グループの数は少子化の影響で減っている。かつては別のグループとけんかをすることで内部の結束を強めていたが、現在は身近に複数のグループが存在することがあまりない。頻繁にあった外部グループとの暴力的対立は少なくなった。その分、内部のいじめに向かっている可能性はある」

 「非行に関する問題は犯罪と絡むこともあるので家族や学校だけで対応するのは難しい。警察は日常的に非行グループに接しているので、グループに関連する人脈にも詳しい。問題が深刻化する前に警察などの専門機関に相談するべきだ」

 ■不登校は予兆

 28年間、家庭裁判所の調査官として非行少年に向き合ってきた鈴鹿医療科学大の藤原正範教授(司法福祉学)は、背景に少年たちに虚勢の張り合いがあったのではないかと推測する。

 「少年グループのリーダーにはメンバーになめられたくないという心理が働き、普通一人ではやらないような暴力にエスカレートしていくことが多い。グループに明確なリーダーがいれば、死に至るほどの暴力を止めることができる。だが、最近のグループはグループ内の序列がはっきりしていないことが多い。虚勢を張り合い、格好のいいところ、勇ましいところを仲間に見せようとする。だから『やめろ』と言えなくなる」

 「加害者や被害者本人や周辺を調査すると、多くのケースで予兆となるのが不登校だ。不登校になっている児童・生徒には、掘り下げた支援が必要だ」

 ■あともう一歩

 男子生徒は不登校というSOSを出していたが、学校は助けることはできなかった。川崎市教育委員会によると、担任が1月19日から2月13日までの間、5回家庭訪問したが、家族も含めて接触できなかった。担任は母親の携帯や自宅に計33回連絡。母親は「自発的に登校するまで様子を見る」「遊びに出ている」と返答したという。男子生徒と電話で直接連絡が取れたのは2月16日。「元気? テストもあるから学校においで」と担任が伝えると、男子生徒は「そろそろ行こうかな」と応じたという。その4日後、事件は起きた。

 神奈川大の荻野佳代子教授(教育心理学)は、学校だけではなく地域や関係機関との連携を重視する。

 「今回の事件は結果としてはあまりに残酷で残念なものになってしまったが、被害者が何人かの友人に困っていることを伝えたり、先生とも電話で話したり、学校関係者と連絡は取れており、だからこそ、あともう一歩という思いが残る。学校内はもちろん、学校と地域、関係機関がより一層機動的に連携することが求められている」

 ■変わらぬ困難

 川崎区には社会福祉の観点から家庭や子どもを支援するスクールソーシャルワーカー(SSW)が1人配置されていた。

 SSWは学校だけでは対応が難しく、家庭にも介入する必要がある場合、児童・生徒、保護者から問題を聞き取り、児童相談所、福祉事務所、警察、民生・児童委員などの関係機関につなぐ役割を担う。

 学校が区に要請し、派遣されるシステムだが、今回のケースでは学校から派遣要請はなかった。市教委の担当者は「家庭との関係がない場合には派遣できない。家庭と十分な連絡を取れず、状況を把握できない現状だった」としている。

 県内で活動するSSWの一人は学校や専門職、地域住民が連携して児童・生徒や家庭を支援する仕組みが必要だと訴える。

 「二十数年前から子どもたちを見てきているが、非行グループに入る子どもの本質的な部分は変わらない。昔も今も、家庭の問題や貧困などで社会から排除された子が集いやすい。困難を抱えている家庭も増えており、家族だけでは子どもを守ることができない。今回のような事件を防ぐには、地域や学校など、さまざまな方面の予防的介入が必要だ。子どもの6人に1人が貧困状態といわれている。この事件の背景にどんな社会問題があったのか、考えていかなければならない」

 ■問題抱え込み

 早稲田大の喜多明人教授(子ども支援学)は学校は子どものSOSに気付いていても、問題を抱え込んでしまう体質があると指摘する。

 「非行傾向のある生徒の不登校の問題に学校は対応しきれない。学校や家庭の外でトラブルに巻き込まれているのを察知するのは難しい。教師に全てを求めるのは無理があり、学校は対応力を失っているという現状から出発しなくてはいけない。学校が問題を抱え込んで“しょいこみ体質”になっている。これは全国的な問題だ」

 「川崎市は2000年に全国に先駆けて子どもの権利に関する条例を制定し、子どもの権利侵害の相談・救済機関『人権オンブズパーソン』も相談電話『チャイルドライン』もある先進的な地域だった。本人や周囲の子どもからSOSの情報が寄せられれば、対応できたかもしれない。子どものSOSをキャッチするのは難しい。だからこそ大人たちの連携が欠かせない。学校は外部の機関にもっと開かれた場所であるべきだ」

【神奈川新聞】

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