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ピースボート共同代表・川崎哲さん
時代の正体〈70〉歯止めかける論議を

社会 | 神奈川新聞 | 2015年3月2日(月) 17:12

川崎哲(かわさき・あきら)さん
川崎哲(かわさき・あきら)さん

 安全保障法制に向けた自民、公明の与党協議が進み、戦後日本の安保政策が激変しようとしている。平和を訴える世界一周クルーズで知られるNGO(非政府組織)「ピースボート」共同代表の川崎哲(あきら)さんの目にはいくつもの危機が重なって映る。研究者やジャーナリスト、NGO関係者らと集団的自衛権問題研究会を立ち上げ、訴えるのは地に足を着けた論議の大切さだ。

 研究会の発足は昨年6月。1カ月後、安倍晋三内閣は集団的自衛権の行使容認を閣議決定。憲法解釈を変更し、9条が禁じてきた海外での武力行使が可能となり、自衛だけでなく「他衛」のための戦争に道が開かれた。

 〈政府や国会の動向、自衛隊の動き、国際社会の反応、文献紹介に加え、適宜、独自の視点で分析記事を掲載する。日本の平和原則のなし崩し的な変更を止める一助になればと願う〉

 研究会が発刊する「ニュース&レビュー」創刊号の巻頭言に、そうつづった。

 2012年12月の総選挙でその座に返り咲いた第2次安倍政権。川崎さんは「第1次政権で積み残した政策を一気に実現しようとしている」とみてきた。「しかも、最大の目標である憲法改正と安保法制の改定は国民的議論にならないよう巧妙に手を打ちながら、だ」

 13年参院選と14年衆院選で自民党が「景気」を争点に掲げたのが最たる例。「集団的自衛権の行使容認を受けて着手する安保法制も、4月の統一地方選に影響しないよう与党協議を進め、具体的な法案の中身が出てくるのは選挙後という段取りになっている」

 無論、すべての事柄を国民で議論して決めるべきだとは思わない。政府主導でスピード感をもって実行すべきものも少なくない。「だが、いま安倍政権がやろうとしているのは戦争と平和にかかわる問題だ」

 権力は腐敗し、暴走する。その最大の悲劇が先の大戦であった。「だから憲法は重い鎖を課している。なのに安倍政権には、その根本的思想が欠落している」。自らが内包する危険性に無自覚なまま、あるいは無自覚ゆえ、重しである憲法を変えてしまおうという政権。そこに危うさがあり、歯止めをかけなければと川崎さんは考える。

相反する狙い


危うさは、与党協議が始まった安保法制の論議にも投影されている。

 「政府の安全保障の考え方には異なる二つの方向性がある。にもかかわらず、同時並行的に進み、互いがその思惑を利用し合うという奇妙な状況にある」

 一つ目は、米国の要請による武力行使拡大の方向性。中東やインド洋をはじめ米軍が展開中の「テロとの戦い」に自衛隊が柔軟に連携できるようにするというものだ。米側に財政的余力がなくなってきたため、自衛隊による後方支援を手厚くしてもらいたいという思惑がある。


川崎哲(かわさき・あきら)さん
川崎哲(かわさき・あきら)さん


 もう一つは、安倍首相が強く打ち出す、中国や韓国、北朝鮮といった隣国との関係で、自衛隊の活動内容を拡大させようとする法整備だ。

 「テロとの戦い」については従来、テロ対策特別措置法やイラク特措法など期限を区切った特措法によって、戦闘状態にない場所であることなどを条件に自衛隊を海外へ派遣してきた。

 一方、アジアの隣国との関係では周辺事態法など、地理的制限を加えたまったく別の発想による法整備によって自衛隊の武力行使を限定的に認めてきた経緯がある。

 いま検討されている安保法制は、こうした趣旨の異なる二つの枠組みについて一緒に大きく見直す方針だ。特措法は恒久法へ、周辺事態法などは地理的制限を取り外すことなども検討されている。

 「安倍首相は米軍の要請にかこつけて、アジア地域の中で『強い日本を取り戻す』と息巻き、米国は安倍首相のナショナリズムによる求心力をテコに自衛隊の活動範囲を拡大し、海外で活動できるようにしようとしている」と川崎さんはみる。だが、自衛隊派遣の地理的制限を取り払うことには依然として懸念は大きく、国民的理解は得られていない。一方、安倍政権が中国に強硬姿勢をとり続け、日中関係がこれ以上悪化することを米国は望んではいない。経済的に無視できない貿易国となっているためだ。

 「本来の狙いは双方とも相反するはず。それを理解した上で互いに思惑を利用し、必要性を高め合っていて、極めて危うい構図」

 それが意図せぬ結果をもたらしかねないと川崎さんは危惧する。

終わらぬ抵抗



 集団的自衛権の行使容認を受けた安保法制は統一地方選後、具体的な法案として国会へ提出される見通しだ。

 自民、公明の与党が衆院で3分の2以上の議席を獲得している今、与党協議が終われば、事実上の決着をみるといっていい状況だ。

 川崎さんはしかし、言う。



 「『安保法制が国会を通過したら明日から暗黒時代がやってくる。もう終わりだ』といったあおり方で世論を盛り上げたくない」と、地に足を着けた議論を呼び掛ける。

 草の根の市民レベルから上げるべき声がある。平和活動と国際交流を展開するピースボートのスタッフとなって10年余り、世界を船で巡るたび、その思いを強くする。「世界各国のNGOメンバーの中には、それはもうしぶとく続けている人たちがいる」

 ノルウェーで出会ったNGOメンバーは、政府機関の諮問委員会の委員として名を連ね、政府の年金基金を非人道的な用途へ使うことを禁止するという提言を実現させていた。ニュージーランドでは市民団体が法律制定や条約締結に関与していた。「各国のNGOメンバーと話せば、そのたびに政府との絶妙な距離感や提言の実現方法を知る。そしてまだやれることがあると実感する」

 米国が湾岸戦争を始めた1991年、大学生だった川崎さんは仲間と集まりデモを始めた。戦争の不条理を知れば知るほど、声を上げずにはいられなくなっていた。卒業後、平和や人権を守る活動の道へ進んだが、世界で戦火はやまず、その歩みは挫折の連続に他ならなかった。

 「だが、僕らのやっていることは100%勝ったとか完敗したとかそういうことではない。政府のやり方が間違っているというのであれば調査研究を続け、理詰めで論を尽くし、10%でも20%でも修正させる。そこに意味がある」

 ニュース&レビューの最新2月号ではこう書いた。

 〈5月に法案が出されてから6月下旬の会期末までに議論を詰めようというのは、あまりに短い〉

 〈有事には国民の権利が合法的に制限される。つまり(集団的自衛権発動の根拠となる)「国民の権利が根底から脅かされている」という論理を使って、国民の権利に対する制限が合法化されるのである。リアリティと危機感をもった議論が求められる〉

 毎月1度のペースで出してきたニュース&レビューだが、3月から週刊に切り替えようとも考えている。

 かわさき・あきら ピースボート共同代表、集団的自衛権問題研究会代表。1993年東大法学部卒。著書に「核拡散 軍縮の風は起こせるか」(岩波新書)、「核兵器を禁止する」(岩波ブックレット)など。川崎市在住、46歳。

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