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川崎・多摩川中1殺害
「犯人」ネットで拡散 SNSと少年法

社会 | 神奈川新聞 | 2015年3月1日(日) 09:54

「君を、忘れないよ」「救ってあげられなくてごめんね」…。男子生徒が遺体で発見された多摩川河川敷には、献花とともに多くのメッセージも寄せられている
「君を、忘れないよ」「救ってあげられなくてごめんね」…。男子生徒が遺体で発見された多摩川河川敷には、献花とともに多くのメッセージも寄せられている

 「拡散希望」-。川崎市川崎区の多摩川河川敷で市立中学1年の男子生徒(13)が刺殺された事件では、そんな触れ込みとともに、容疑者の逮捕前からインターネット上に「犯人」と名指しされた複数の人物の個人情報があふれた。しかも名指しされたほとんどが、報道では匿名となる少年だった。事件への激しい憤りが拡散に拍車を掛けた格好だが、ネット上には今もそうした情報が残ったままだ。誰でも簡単に発信できるソーシャルメディアの発達が、人権やプライバシーの保護に新たな問題を突き付けている。

■発生後すぐ
 事件発生2日後の2月22日ごろから、短文投稿サイト「ツイッター」や簡易掲示板「2ちゃんねる」などに「犯人」として複数の少年の顔写真や名前が掲載された。情報はまず中学生らの間で流れ、事件報道が過熱するにつれてさらに拡散。そこには、こんなコメントも添えられた。「拡散希望」「見つけたらすぐ連絡ください」「残忍。少年法どころじゃない」-。

 2月27日、殺人容疑で逮捕されたのは、17~18歳の少年3人だった。遺体が発見された河川敷を訪れた女性(42)は「こういう事件ならば、少年法どうこうじゃない。全国に知らせるべき」と、ネット上の“実名報道”を支持。別の女性(68)も「被害者の母親のプライバシーは表に出るのに、なぜそこまで加害者を守るのか」と強調する。

 共通しているのは、少年である容疑者が「少年法」に守られ、実名などが明らかにされないことへのいら立ちのようだ。

 今回の事件で「犯人」もしくは「関係者」としてネット上で拡散した人物の名前や顔写真は10人前後。まったく無関係な人たちの情報も流出した。

 前述の女性2人は「もし無関係なら(名指しされた人が)自殺してしまうかもしれない」「ネットはすぐに拡散するが、間違っていたとしても訂正は拡散されない」とも話した。

■捜査に影響
 ネット上に氾濫した「犯人情報」に、県警も少なからず振り回された。

 川崎事件直前の2月19日夕、横浜市西区で中学2年の男子生徒(14)が重傷を負う事件が発生。ネット上では、早い段階から川崎事件とのつながりが取り沙汰されていた。

 県警は事実確認に追われた。ある捜査幹部は「ネット上の情報一つ一つを内容が事実かどうか確認する必要があった。書き込んだ人を特定するのにも時間がかかった」と振り返る。

 捜査関係者によると、横浜の事件で傷害容疑で逮捕された無職の少年(16)も、個人情報を拡散された1人。3月9日に身柄を拘束されたこの少年は開口一番、こう切り出したという。「自分は川崎の事件とは関係ない」

 別の捜査関係者は「誰でも匿名で情報発信できる手段が与えられる時代になったということ」と、捜査手法の変化への戸惑いを口にした。

■実名報道も
 「氏名、年齢、職業、住居、容貌などによりその者が当該事件の本人であることを推知できるような記事または写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない」。少年法61条の規定だ。健全育成を期すべき少年の更生と社会復帰を阻害する恐れが大きいことが理由とされる。

 罰則はないが、この規定を踏まえ、神奈川新聞社を含めた新聞社やテレビ局は、逮捕された少年3人を匿名で報じている。

 だが3月5日発売の「週刊新潮」は、リーダー格の少年(18)の実名と顔写真を掲載した。同誌編集部は「事件の残虐性と社会に与えた影響の大きさ、少年の経歴などを総合的に勘案した」と説明するが、横浜弁護士会は同誌の報道が少年法に反すると抗議する会長談話を発表。日弁連も同様の会長声明を出した。

■規制難しく
 一方、1949年に施行された少年法は、そもそもネットでの発信自体が想定されていない。では今回のネット上の拡散行為は、少年法に抵触しないのか。

 横浜弁護士会所属で少年法に詳しい仁平正夫弁護士は「61条の趣旨に反する行為」と指摘する。同法に明文化されていないとはいえ、「ネット上の拡散によって、その情報は新聞、雑誌以上に一瞬で世界に広まる。その結果、少年の更生を妨げる可能性がある。その点で、新聞と共通している」と見るからだ。

 少年による社会の注目を集める事件が起きるたび、少年法は厳罰化にかじを切ってきた。昨年の法改正では、18歳未満の少年に言い渡す有期刑の上限が引き上げられた。川崎事件を受け、与党幹部からは少年法の対象年齢の引き下げなど、さらなる厳罰化を求める声も上がる。

 こうした動きに対し、仁平弁護士は少年法の理念を尊重する立場から、「政府は慎重に議論を進めてほしい」と話す。情報通信技術の発達で社会の情報化が進み、今回のネット拡散のような想定外の事態が起こっていることについては、「組織メディアとは違い、(少年の実名などが発信されても)一個人が対象のネットでは規制が難しい。また規制を強化すれば、表現の自由を侵害しかねない」と対応の難しさを指摘する。

 もっとも、個人情報を流出させることは、少年法とは別に、名誉棄損やプライバシー侵害に当たる可能性も高い。

 ネットの“炎上”やソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などに詳しい横浜弁護士会所属の藤井総弁護士は、「個人情報を他人に広める行為は、自ら発信することと本質的に変わらない。事件を憎む気持ちとは別問題」と指摘。「投稿内容は半永久的に残ってしまうため、名誉毀損(きそん)やプライバシー侵害などの法的責任が生じる可能性がある。安易な行動は取らないでほしい」と呼び掛けている。

【神奈川新聞】

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