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働きたい がん患者の就労〈下〉社会の支援はまだ途上

社会 | 神奈川新聞 | 2015年2月23日(月) 13:00

医療機関の関係者や行政の担当者らが成果を発表したフォーラム =都内
医療機関の関係者や行政の担当者らが成果を発表したフォーラム =都内

7日に都内で開催された「勤労者医療フォーラム」。がん患者就労支援の研究やモデル事業に取り組む医療機関の関係者や行政の担当者から成果が報告された。登壇者の一人、静岡県立静岡がんセンターの山口建総長が課題を端的に指摘した。

「重要なのは、治療が必要になっても仕事を辞めないことと雇用側が理解を深めること」

静岡がんセンターは2010年から地元の沼津法人会と連携し、独自の支援事業を行っている。法人会を介して就職を希望するがん患者を地元事業者に紹介し、興味を示した事業者から患者に連絡がくる仕組みだ。

これまで利用者13人のうち就職できたのは3人だけ。雇用側の理解不足があらためて課題に挙がった。

そこで、同センターは「がん患者就職支援実践報告会」を昨年2月に初開催。がん体験者や治療しながら働く患者、企業の人事担当者らが参加し、患者と就労の苦労や支援の必要性を語り合い、理解を深めるきっかけになったという。3月に第2回が予定されており、今後も継続する方針だ。

山口総長は「理解が進んできたという実感はあるが、患者が一度退職し、再就職するのは依然、難しい。就労支援の取り組みが広まっていることを地道に伝えていくことで、社会全体の機運が高まれば」と見据える。

■行政主導

雇用側の理解を深めるための啓発活動も始まった。厚生労働省の委託事業の「がん対策推進企業アクション」。がん検診の受診率向上やがん患者の就労環境の整備を目的とし、参加する全国の企業、医療施設向けにセミナーを開催したり、パンフレットを配布したりしている。

昨年2月には参加企業を対象にアンケートを実施。短時間勤務制度の導入や受診日の有給化など就労支援に取り組んでいるのは10・0%にとどまった。「参加企業は比較的意識が高い」にもかかわらず、実際の制度に反映されていない現状が浮かび上がった。社員が罹患を申告しにくい雰囲気や企業と主治医との連携も課題に挙がった。

2010年の初年度に約30だった参加団体は2月現在、1529企業・団体に増えた。うち神奈川は57を数える。

「関心の高まりを感じている」と手応えを口にする担当者は「今後、職域の患者は増えるので、がん対策は企業にとって喫緊の課題。患者の早期発見、早期復帰が実現するように企業に働き掛けていきたい」とさらなる推進を目指す。

東京都も動きだしている。3月に企業の人事担当者向けのハンドブックや社員研修の教材を作成、配布するほか、就労環境が整っている企業の審査、表彰を初めて行う予定だ。

都の担当者は狙いを明かす。「行政が主導して対策に乗り出すことで、社会全体の課題だという認識が広まることを期待している」

胃や肺などがんの種類によって患者や家族をサポートしている患者会についても、てこ入れが必要という。山口総長は「死亡率の高いがんは患者会が少ない。患者にとって大きな支えとなるものなので、行政がカバーすることも考えられる」と指摘する。

■強い心で

「社会の意識を変えるのは時間がかかる。いろいろな性格の人がいるので一般論として言うことは難しいが、大切なのはがんを隠さず、周囲に理解を求めていくこと」と話すのはジャーナリストの鳥越俊太郎さん(74)だ。

大腸がんが見つかったのは約10年前。切除して約1カ月後に復帰したものの、肺や肝臓に転移していることが分かり、さらに3回、切除した。昨年2月、最後の手術から根治の目安とされる丸5年を迎えた。

がんであることを公表したのは「闘病の記録が仕事につながるということもあったが、隠すことはがんに負けたようで心が弱気になるから」。復帰後は便通の回数が増え、番組の収録など仕事にも影響したが、「言い訳はしなかった」という。

がんを受け入れて働く道を選んだ鳥越さん。手術後も各地を飛び回り、ジャーナリストとして現場主義を貫いた。「北海道の雪山など健康な人でも過酷な現場にも行かされることがあった。番組のスタッフは私のことをがん体験者と思っていないんじゃないか」。冗談を交じえながらも、がんを克服した自負をにじませた。

周囲の理解を得られたことも大きいと感じている。だからこそ、「会社によっては偏見もあるだろうけれど、強い心を持って理解を求めていくこと。自分の意識の中で治療と就労を両立させることが大事」と力を込める。

■寄り添う

フォーラムでは、抗がん剤の副作用で抜け毛などに悩む患者の外見ケアや立場の弱い非正規労働者が多い女性患者の支援といった課題も挙げられ、がん患者の就労支援はまだ途上だ。

障害者支援のように法律で雇用を担保する方法も考えられるが、山口総長は「国民の2人に1人ががんになる時代。これほど対象者が多くては、法で規定するのはなじまない」と指摘する。

鳥越さんが「当然のことだが、社会全体の支援が必要」とくぎを刺すように、求められているのは、医療機関、企業、行政がそれぞれ患者に寄り添う支援だ。

がんを理由に食品工場を解雇され、半年以上就職活動を続ける秦野市の片桐庄一さん(57)=仮名=は言った。

「口にしたことはないが、正直、自殺しようと思ったことがある。社会保障は整っていると思っていたが、これほど住みにくい国だとは思っていなかった」

職を失い、生きる希望を失った患者の声は届いているだろうか-。

【神奈川新聞】

 
 

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