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どう防ぐ性犯罪 障害者支援の現場で(下)質確保が大きな課題

社会 | 神奈川新聞 | 2015年2月20日(金) 11:06

是枝喜代治教授
是枝喜代治教授

 職員によるわいせつ事件が発覚した障害児が通う「放課後等デイサービス」は、ニーズの高さから事業所数は増え続けている。障害児の成長を地域で支える仕組みが整いつつある一方で、質の確保が大きな課題となっている。

 同サービスは2012年4月にスタート。従来の制度では障害の種類によって受け入れ先が分かれていたが、障害の種別にかかわらず、小中高校の児童・生徒が通えるようになった。担い手も自治体や社会福祉法人だけでなく、民間企業やNPO法人にも門戸を開いている。

 12年4月に112だった県内の事業所数は、今年1月時点で276まで増えた。県の担当者は「保護者からの需要があり、今後も増加が見込まれる」と話す。

 一方で、県内の事業所の関係者は「急に数が増えたことで、人材の質に不安があることは否めない」と明かす。

 各事業所には、5年以上の実務経験など要件を満たした「児童発達支援管理責任者」を1人以上置くことが求められている。一方で、一般職員は保育士資格を持つ職員がいる場合もあるが、特別な資格がなくても働くことができる。厚生労働省の13年の全国調査によると、事業所職員のうち資格要件のない「指導員」が55%を占めた。

 先の関係者は「できるだけ国家資格を持つ人や専門資格のある人を採用するようにしているが、確保は難しい」と話す。この関係者の事業所では、弁護士の助言を受けて苦情の申立窓口を設けるなど、虐待防止に力を入れるが、「わいせつを含めた虐待が絶対に起きない、と言い切れる事業所はないのでは」と本音を漏らす。

 だからこそ、「アンテナを張り巡らせ、小さな兆候にどれだけ早く気づくことができるかに、事業所の力の差が表れると思う」。サービスの質は、事業所の自助努力に大きく左右されるのが実情だという。

 放課後等デイサービスには人員配置などの基準があるものの、あくまで最低限度の基準にすぎない。多様な支援が行われている中で、どう質を担保するか、行政側も対応に追われている。

 厚労省は、放課後等デイサービスを含む障害児の通所支援の事業所について、本年度中にガイドラインを作成する予定で、有識者が議論を続けている。障害のない子どもが利用する保育所や幼稚園、放課後児童クラブには質の向上に努めるよう計画の作成などを定めたガイドラインが存在しながら、障害児の支援事業所にはないためだ。

 今回の事件が起きた事業所について、開設時の指定や指導をしてきた横浜市も、これまで以上の対策を講じる考えだ。15年度から、新規事業者に対する市独自の研修受講を義務化するほか、地域ごとに事業所などが相互に連携できる仕組みを構築。新規オープン時の指導の強化や、情報共有の体制をつくり、サービスの質の確保を目指す。

 市障害児福祉保健課は「万能策は見いだせていないが、安心してサービスを利用してもらうことが最も大事」と話し、再発防止に力を入れる考えを示す。

 ただ、同課で指導に当たる人員は課長、担当係長を除けばわずか3人。制度開始から事業所数は4倍以上の85カ所(1月現在)に増えたものの、人員は据え置かれている。「事業所数の増加で、仕事量は増えている」と話す同課は、今回の事件が起きた事業所について「結果として、指導が十分だったとは言えない」と認める。

 市の計画案では、3年後には事業所数は計200カ所を目指す。指導に当たる体制の強化について、同課は「今後、検討していきたい」としている。

行政が積極関与を

 2012年の児童福祉法改正で創設された「放課後等デイサービス」の事業所数が増えたことは、さまざまな障害のある子どもに門戸が開かれるなど、メリットは大きい。こうした子どもたちはこれまで放課後の余暇を十分に楽しむことができなかった。学校とは違う場で人間関係を築くことは本人の成長につながり、保護者の負担軽減にもなる。民間が運営する事業所が増えているが、サービスを充実させている事業所もある。

 今回の事件の背景として、事業所数が増える一方、人材の確保や育成が追いつかず、サービスを充実させるのが難しい状況にあることなどが影響しているように思う。

 事業所で働く職員に特別な資格要件はなく、厳しい雇用情勢の中で、本人が望まない形で別業種から流入してくることもあるだろう。資格要件のハードルを高くしすぎると運営が成り立たなくなるが、採用の段階で丁寧に人間性を見極めるべきである。例えば、面接だけでなく、子どもと実際に触れ合った時の本人の対応を見ることなどは有効だろう。

 障害児の権利擁護について職員にしっかりと意識させておくことも必要だ。障害児が相手だからということで、過剰にスキンシップをしたり、年齢に不相応な言葉遣いをしたりすることは不適切な対応である。

 例えば、高校生くらいの年齢の子どもであれば「ちゃん」付けではなく年齢相応に「さん」付けで呼ぶようにするなど、一般社会と同じようなコミュニケーションを心掛けるべきだろう。たとえ悪意がなかったとしても、障害児本人のためにならないだけでなく、権利擁護の意識が希薄になり、さまざまな虐待にもつながりかねない。

 また、保護者の意見を聞き取る機会を設けたり、職員同士の連携を密にしたりしてほしい。現行制度になり、それまで別々だった重度の肢体不自由児、元気に動き回るような知的障害児、比較的軽度の発達障害児まで、一緒に受け入れるようになった。さらに、例えば自閉症といっても、本当に一人一人個性が違う。その子どもの個性を丁寧に見極めて支援をしていく必要がある。

 そのためには、事業所内だけでは限界があり、学校や家庭での様子などの情報収集が欠かせない。利用児の特性に合わせた支援のために他機関と連携を深めることで、結果的に職員の問題行動などの早期発見にもつながるだろう。

 近年の事業所数の増加に伴い、適切な支援のノウハウを持たない事業所も少なくない中で、行政が関わる重要性も増している。運営上の注意点について積極的に通知を出したり、適宜聞き取りを行ったりして、新規の事業所を含め、各事業所の質を担保する取り組みを進めてほしい。数を増やすことも大事だが、今回のような事件を防ぐためにも、適切なサービスを提供できているかを監督することが、行政には求められている。

是枝喜代治・東洋大教授

これえだ・きよじ 1960年生まれ。2012年から東洋大ライフデザイン学部教授。専門は障害児者福祉。特別支援学校の教員も15年間務めた。茅ケ崎市内の発達障害児の保護者団体の支援などにも関わる。

【神奈川新聞】


放課後等デイサービス事業所数
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