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子ども虐待 制度で守れ 「ネグレクト防止ネットワーク」山田 不二子理事長に聞く

社会 | 神奈川新聞 | 2015年2月6日(金) 10:55

山田不二子さん
山田不二子さん

◆「権利擁護センター」7日に開業 虐待についての聞き取りをワンストップ化して子どもの負担を減らし、児童相談所や警察などの関係機関のつなぎ役を果たす-。「子どもの権利擁護センターかながわ」のオープンはNPO法人子ども虐待ネグレクト防止ネットワーク理事長で内科医の山田不二子さん(54)にとって悲願といえた。「子どもを虐待から守るには思いだけでは足りない。制度や仕組みが不可欠だ」。その信念に至るまでには数々の苦い思いを胸に刻まねばならなかった。

中学1年生の女子生徒の膣(ちつ)から見つかったのは乾電池、それも最も大きい単一形だった。

「体調不良を訴えたので私が診療し、検尿の結果、異常な数値が出た。紹介した先の病院で受けたエックス線検査で映ったのが電池だった。長期間放置されていたため電池が液漏れし、膣内で癒着し始めていた」

同居する家族による虐待が強く疑われた。誰に入れられたのか、少女は決して口にしようとしなかった。「ひどい仕打ちを受け、しかも1カ月以上たってどうにもならなくなるまでSOSすら出せない。性虐待が子どもに負わせる傷の深さ、残酷さを目の当たりにし、衝撃を受けた」

子ども虐待ネグレクト防止ネットワークを立ち上げた1998年当時に直面した事例だった。家庭から引き離し、養子縁組によって少女が困難な状況を脱するまで3年を要した。「今であれば即保護されるケース。当時は態勢が整っておらず、最後は家出をさせて保護するという形を取らざるを得なかった」。子どもを虐待から守る難しさ、ハードルの高さ、多さを知り、「被虐待児から聞き取りをする専門機関」の必要性を思い続けてきた。

■致命的遅れ■ 児童福祉法は虐待が疑われるケースを発見した場合、児童相談所などに通告することを発見者に義務付けている。子どもに聞き取りを行う際、やってはいけない行動をまとめた「DO NOT(ドゥー・ノット)リスト」というものがある。

最たる例が「加害者と疑われている人物に虐待について聞くこと」だ。「虐待をしていて本当のことを言う親はまずいない。自らの犯罪を隠そうと子どもにうそをつかせたり、脅したり手口が巧妙化する」

虐待の早期発見には、子どもが多くの時間を過ごす学校の教職員の果たす役割は小さくないが、直接家庭に話を聞きに行くのは「完全に逆効果」と言い切る。問題解決や再発防止のための努力にも見えるが、「原則は加害者に嫌疑を悟らせないこと。日本では学校に調査権を与え、やってはいけないことを推奨する制度になっている」。

活動を続けるうち、虐待防止に取り組む米国の医師らと出会った。専門の面接者が子どもに聞き取りをし、そこに児童相談所職員と警察官、検察官が同席する「司法面接」という手法や実行するための「多機関連携チーム」が実績を上げていることを知った。

そして、口々に言われた。「日本の職員や個人の力量や熱意は米国に引けをとらない。ただ、それを十分に発揮させ、機能させられる制度やシステムの整備が致命的に遅れている」。自身が活動を通して痛感してきたことだった。

■情報を共有■ 2012年に横浜市南区のアパートで虐待死した山口あいりちゃん=当時(6)=の事件も「制度の整備によっては防げた可能性がある」と悔しがる。

あいりちゃんは両親が離婚後、母親に引き取られ、母親とその交際相手の男から暴力を振るわれ、亡くなった。住まいは千葉県松戸市や秦野市、横浜市などを転々とし、学齢期に達した後も不就学だった。学校に通っていないことを不審に思い、各自治体の教育委員会が追跡調査などで連絡を取り合っていれば異変に気づけた可能性があった。

山田さんが例として挙げるのが、米国などが実施する「クロスリポート(相互通告)」だ。虐待の疑い例を認知したのがどの機関であれ、関係する機関が全体で情報を共有する。深刻さを判断し、必要な機関が必要な行動を単独、あるいは共同で取っていく。

「あいりちゃんの件も虐待死に至る前に、はだしで徘徊(はいかい)している妹を警察が家に送り届けている。そこで警察が育児放棄を強く疑い、児相と一緒に動きだしていれば、その後の展開は違っていたはず。『自分たちの仕事はここまで』と児相への通告止まりになってしまうのが今のやり方。各機関が連携し、最悪のケースを念頭に動いていれば、あいりちゃんは死ななくて済んだはず」

子どもの権利擁護センターかながわの波及効果として期待するのは、まさにその点だ。司法面接を実施することによりセンターが児相、警察、検察の結節点となり、効果的な連携へとつなげていく。それを制度化し、確立していくことが目標だ。

■実効性の壁■ 司法面接を可能にしたセンターだが、警察や検察の協力をどこまで仰げるかという課題がある。また、日本では原則、警察や検察が直接聞き取った証言以外は証拠採用されない。警察官や検察官がその場で指示をするとはいえ、一義的には面接官が聞き取った証言に法的効力を持たせられるかは未知数だ。

山田さんが望みを託すのが、検察の「検察官面前調書」という制度だ。検察官の面前での供述を録取した書面を指し、証拠としても採用され得る。「聴取の録音・録画に肯定的な検察がセンターでの聞き取りを適用してくれれば、かなり有効になる」と期待を込める。

センターが持つ機能の十分な発揮や目指す多機関連携の実現には数々の困難が待ち受けている。

「それでも」と山田さんは言う。「いまの日本同様、米国でも当初は各機関の縦割りが障壁となっていた。それを実践を通して変えていったジャン・ベイズという小児科医は30年近く前、自身のクロゼットを三つの小部屋に改装し、子どもの権利擁護センターの原型をつくった。彼女は言っていた。『最初は小さくても、とにかく始めることよ』と。だから、私も始めるんです」

7日のオープンを前に、すでに数件のヒアリングが予定されているという。

▽山田不二子(やまだ・ふじこ) 1960年横浜市生まれ。内科医。山田内科胃腸科クリニック(伊勢原市)副院長。児童虐待防止活動に取り組み、98年に「子ども虐待ネグレクト防止ネットワーク」を設立。2001年のNPO法人化に伴い理事長に就任。

【神奈川新聞】

 
 

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