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時代の正体〈61〉「イスラム国」は問う(1)

社会 | 神奈川新聞 | 2015年2月3日(火) 11:31

(写真左から)国枝さんと佐藤さん
(写真左から)国枝さんと佐藤さん

中東の過激派「イスラム国」による日本人人質の殺害事件は対岸の火事と思われてきたテロの現実を眼前に突きつけた。かの地に渦巻く憎悪と暴力にどう向き合えばいいのか。国際社会で日本が果たすべき役割は何か。識者に聞く。

◆国立東京工業高等専門学校名誉教授 佐藤義隆さん 中東情報正しく伝達

湯川遥菜さんと後藤健二さんが殺害され、「これは日本の9・11だ」と発言する人まで現れました。

では2001年に同時テロを受けた米国はどうなったか。国中が興奮状態に陥り、むやみに軍事力を行使した結果、世界はより不安定な状況になり、多くのテロ集団を生むことになった。もっと冷静な対応ができなかったのかと悔やまれます。

なぜ2人を殺害したのでしょうか。イスラム国は、従来のように「土地を支配する」のではなく「自分たちの思想に共鳴してテロを起こせば、そこが支配領域になる」という考えなのではないか。そうであるなら、例えば日本に支配領域を広げるためには日本でテロを起こさせるようにすることが狙いになります。

日本政府が海外で軍事行動ができる国になりたいと考えていることを彼らはよく知っていると思います。米軍の軍事行動に同調するよう誘い出せれば、自分たちの敵にすることができる。そのために人質を殺害し、怒らせ、米軍の支援をさせることに引き込めば、日本でテロを起こさせる理由が整うのかもしれません。

日本がかつてのように海外では軍事行動をしない国であれば人質を取っても意味はない。殺害の理由もない。今回の事件は日本を十字軍側に組み込ませイスラム国側の標的であることを明確にし、日本でテロを起こし、支配領域を広げるという策略のように思えてなりません。

それに乗っかることは愚かな話です。ヒステリックにならずに難民の救済・支援を公平に行うことを世界に表明し、実際そのような支援を行うことです。

もっと根本的には、日本は海外でも軍事力を使わない国であることを宣言し、集団的自衛権の名の下、米国の手下のような態度は取らないことです。

中東の人たちの日本への信頼と尊敬は他国を軍事侵略しない平和国家、大戦の廃墟から復活と成長を遂げた国、優秀な技術、礼儀正しい人たち、高い文化と教養といったことが基になっています。集団的自衛権の行使のための法整備を進めていくことこそ不毛な憎悪を広めることになるのではないでしょうか。十字軍対イスラム国という正義と悪という単純な二項対立は新たな暴力や憎悪を生むだけです。

シリア国立アレッポ大には日本センターという機関があり、毎年「ジャパンフェアー」という日本を理解するための催しが開かれています。昨年も催しがあったと知り、私はあらためて親日の情を感じた。このことを日本人が知れば、シリアや中東への見方も和らぐのではないでしょうか。親しさを感じてくれている人々をむげにする人はいないはずだから。今後すべきこととは中東の国々や文化の情報を正しく伝えていくことではないかと感じています。

◆元在シリア特命全権大使 国枝昌樹さん 差別なくす努力必要

シリア中部の都市ラッカに最大拠点を置くイスラム国による今回の人質殺害事件後、シリア外務省はある公式声明を出しました。日本人の犠牲者と家族、日本国民に同情の念を表明する、といったものです。

国際社会は欧米的価値観で独裁体制のアサド政権イコール悪と一方的にみなし、そしてそれに蜂起した反政府勢力こそが良きものだ、としてこなかったでしょうか。

「アラブの春」もそうですが、欧米は自分たちの価値観である民主主義が世界で最上のものとして中東の国々に押しつけてこなかったか。社会体制は相対的で共存共立であるべきにもかかわらず、です。その傲慢(ごうまん)こそがシリア情勢を複雑化し、イスラム国の台頭を許したのではなかったか。日本を含めて国際社会全体でその視点に立ち、顧みられなければならないと思うのです。

今回の日本人人質事件で考えるべきことの一つにイスラム国の蛮行に政府がどう対応したかという検証の問題があります。国会でも十分な検証がなされるか、私は注目したい。なぜなら昨年、秘密保護法が施行されたから。

開示規定の30年後には判明するかもしれません。しかしそれでは意味がない。今、検証がなされてこそこの先の対応に生かされるからです。

イスラム国の登場において考えなければならないのは差別や格差の問題です。旧植民地から欧米に移り住んだムスリム(イスラム教徒)の存在には、やがて英国やフランスで国籍が付与されることになるが、学校を出て、いざ就職となると、差別と冷たいまなざしに遭う。

その若者に経済力や能力があればはね返すこともできる。が、それがなければ、あらがいようのない疎外感や屈折を生む。

ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で連帯の道が開けた今、自分たちがいかに不平等にさらされているかに気づき、それが怒りや暴力に変わる。

イスラム国を生んだ世界というものを思う必要は私たちにこそあります。なぜなら差別や不平等はいま、在日コリアンへのヘイトスピーチ(差別扇動表現)といった形で日本国内で現れてきているからです。

自分が属する社会における自分の立ち位置、居場所というものに十分な自信がもてず、非常に不安定な感じや疎外感を感じているとき、勇ましいことを喧伝(けんでん)するグループに人は身を置こうとします。不満や怒りなど胸のつかえが晴らされるからです。イスラム国を生み出したのは、若者をそうやって追い込んでいった世界中の格差や貧困、差別、偏見にこそあった。そして今、国内でも同じ構造がある。だとすれば、この国から格差や貧困、差別、偏見をなくしていくことにこそ努力がもっと払われるべきではないでしょうか。

【神奈川新聞】

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