担い手不足や用地減少にあえぐ都市農業を活性化しようと、川崎市が今秋から、情報通信技術(ICT)を活用したモデル事業を始めた。県内で初めて、土の水分量や日射量などに応じて培養液を自動供給するシステム「ゼロアグリ」を導入。市はその効果を見極めるとともに、産学連携や遊休農地活用なども進め、都市農業の課題解消につなげる考えだ。
同市の農業は先細る一方だ。2015年の市内の農地は580ヘクタール、就業人口は1289人。1985年と比べて農地は約半分、就業人口は約3分の1に減った。
市は8月、テコ入れを図るためのモデル事業を(1)ICTを使った施設園芸の省力・効率化(2)福祉農業などによる遊休農地活用(3)大学と地域が連携した農業振興地域の活性化-の3分野で公募。9月に4事業を採択した。
「ゼロアグリ」は(1)の中核を担う最新技術。同市多摩区のルートレック・ネットワークスが、明治大学黒川農場(同市麻生区)と共同開発した。
培養液や水を自動供給するだけでなく、農業者がタブレット端末で土壌状態を確認し、供給量を微調整することもできる。作業時間の削減だけではなく、水や肥料の無駄遣いを減らしたり、品質を安定させて収穫量を増やしたり、といった効果が期待できる。
既に9県50カ所で使用実績があるが、県内はもちろん、都市部での導入は初。同社は「システム1台で6種類の作物に対応できるため、(都市農業の特徴である)少量多品種の栽培にも適している」と説明する。試験設置した同市高津区のトマト農家の男性(54)は「今まで長年の勘でやっていた作業だが、自動化されると管理は楽。味が重要なので、年末の収穫を待ちたい」と話した。
市内ではこのほか、同大農学部が開発したアスパラガスの栽培法の講習会や、遊休水田を活用した地酒復活プロジェクト、遊休農地と障害者雇用をつなげる取り組みなどが進行中。市農業振興課は「多くの産業や大学が集まる川崎らしさを生かし、横の連携を深めながら農業を盛り上げていく第一歩になれば」と期待している。