逗子市で2012年11月、女性=当時(33)=がストーカー行為をしていた元交際相手に刺殺された事件で、同市納税課から女性の住所を聞き出したとして、偽計業務妨害罪などに問われた元調査会社経営の被告(61)に、名古屋地裁は20日、懲役2年6月、執行猶予5年(求刑懲役3年)の判決を言い渡した。
入江猛裁判長は判決理由で「偽りの苦情を述べ、相手の動揺につけ込んでおり、巧妙で悪質。常習的な犯行で刑事責任は軽くない」と指摘。「想定外とはいえ、入手した情報をもとに新たな犯罪が引き起こされた」と逗子の事件にも言及した。
一方、刑を執行猶予とした理由は「罪の一部を認めて反省し、今後は調査業を営まないと述べている」とした。
判決によると、被告は千葉県の探偵業者の依頼で12年11月5日に逗子市納税課に電話し、女性の夫を装って住所を聞き出した。13年6月5日には、京葉ガス(千葉県)に電話し、苦情を装いながら契約者の氏名を聞き出し、この探偵業者にメールで伝え、営業秘密を開示した。
被告は「女性の住所は自分で見つけた。納税課には電話していない」と起訴内容の一部を否認したが、入江裁判長は「供述が変遷し、信用できない」として逗子市が情報源だったと認定した。
◆女性の夫コメント「探偵業にも国が規制を」 判決を受け、女性の夫(44)は代理人を通じ、「人捜しの依頼を受けた探偵業者ではなく、下請けの一個人の探偵(被告)だけが裁かれたことに疑問を感じる。探偵業に対しても国が規制をしていかないと、またいつか同じ悲劇が繰り返されると思う」とのコメントを出した。
また逗子市の平井竜一市長は「不正な手段が使われたとはいえ、結果的に個人情報が外部へ流出してしまったことは痛恨の極み。亡くなった女性にはあらためてお悔やみを申し上げる」とコメント。「さらに個人情報の適切な管理を徹底する」とし、今後も再発防止に全力で努める考えを表明した。
◆逗子ストーカー殺人 2012年11月6日、神奈川県逗子市で女性=当時(33)=が元交際相手の男=同(40)=に刺殺され、男が自殺した事件。県警が11年6月に脅迫容疑で男を逮捕した際、女性から明らかにしないよう求められていた結婚後の姓や住所の一部を読み上げていたことが判明した。男は女性に「殺す」などと大量のメールを送っており、事件をきっかけにストーカー規制法が初めて改正され、執拗(しつよう)なメール送信が付きまとい行為に加えられた。
【神奈川新聞】