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三浦ヘリ事故から1年余 変わらぬ「米軍次第」

社会 | 神奈川新聞 | 2015年1月8日(木) 12:00

不時着に失敗、横転した在日米海軍所属のヘリコプター。県警や三浦市消防本部はすぐに現着したものの、米軍の到着まで遠巻きに機体を見守るしかなかった=2013年12月16日午後4時ごろ
不時着に失敗、横転した在日米海軍所属のヘリコプター。県警や三浦市消防本部はすぐに現着したものの、米軍の到着まで遠巻きに機体を見守るしかなかった=2013年12月16日午後4時ごろ

三浦市三崎の埋め立て地で在日米海軍厚木基地(大和、綾瀬市)所属のヘリコプターが不時着に失敗、横転した事故から、1年余がたった。米軍の切迫感の乏しさが際立つ中、初期対応や情報の伝達・共有に混乱が生じたが、今では改善が図られ、捜査や被害賠償も進められる。だが日本側の対応とは裏腹に、変わらぬ「米軍次第」という構造的な問題が一層、鮮明になっている。

「普段から米軍を意識することは全くないし、ヘリの墜落なんて想像したこともなかった。警察や消防がどんどん来てね。とにかく物々しかった」。事故の痕跡が何一つ残っていない漁港近くの現場を前に、目撃者の50代男性は振り返る。

発生は2013年12月16日午後3時半ごろ。「米軍関係者がいない」「仕切りはどうなっているんだ」。駆け付けた県警関係者から上がった戸惑いの声が、事故直後の混乱ぶりを物語っていた。

04年の沖縄国際大学(沖縄市宜野湾市)での米軍ヘリ墜落事故では米軍が現場を封鎖。沖縄県警さえ立ち入ることができず、沖縄では「治外法権」「占領意識の表れ」と厳しく非難された。事故を教訓に日米両政府は翌05年、米軍機事故の初期対応を定めたガイドライン(指針)を策定した。

三浦事故ではこの指針が全国で初めて適用され、神奈川県警が発生直後から現場周辺を規制した。だが米軍の動きは鈍く、現場到着は事故の約3時間後。事故機の管理は米国にあり、県警は現場保存しながら米軍の到着を待つしかなく、指針で定める事故機直近の規制線を日米共同で設定できた時には既に約3時間半がたっていた。

情報共有もまた、円滑には進まなかった。県警は目撃者の110番通報で発生直後に事故を把握したが、米軍から確認できたのは約10分後。正しい機種名は4時間余り後、飛行目的とルートは翌日の夜だった。

県警は昨年1月、米軍に速やかな現場到着を要請。迅速で正確な情報共有に向けた取り組みも求めた。今年2月18日には厚木基地で実動訓練を行う予定だ。

米軍機事故では多くの機関が関わり、軍事機密という制約もある。それだけに「通常の事件事故や災害の対応とは難しさが違う」と県警関係者。「米軍が情報を出さなければ何も始まらない。必要な情報を求めていく」

◆迅速な情報 欠かせず 当時、米軍基地のない三浦市には事故の対応マニュアルがなかった。市消防本部が119番通報で事故を把握していたが、「本当に米軍機なのか。どこで確認すれば良いのか分からなかった」(市長室)という。

改善策として県は昨年2月、基地がない自治体との間にも緊急連絡体制を整備。担当部署と夜間休日の連絡先を定め、防衛省南関東防衛局などからの情報を提供することになった。

ただ、最も重要なのは米軍からの迅速な情報提供だ。三浦事故では担当者と連絡が取れないなど米軍からの情報伝達が滞った。

日本側の窓口となる南関東防衛局は県警からの連絡で事故の約10分後には把握していたが、米軍から確認できたのは約50分後。県もメディアからの問い合わせで約20分後には情報を得たものの、在日米海軍司令部のある横須賀基地(横須賀市)の担当者から米軍機事故だと伝えられるまでには約2時間半かかった。

事故翌日、県は同局に対し、主に県内の日米関係機関でつくる航空事故等連絡協議会の開催を申し入れた。原則年1回開かれ、要請があれば随時開催できると規定されるが、最後に開かれたのは事故1カ月前の13年11月。県の申し入れ後も開かれていない。今月27日、1年2カ月ぶりに開催する予定だが、事務局を務める同局は「関係機関との調整に時間がかかった」と説明する。

◆真相の究明 阻む「壁」 「まさか実現するとは、思わなかった」(捜査関係者)。事故翌日、県警は米軍の同意を得て現場検証し、業務上過失傷害容疑で約1時間半、機体の損傷程度などを調べた。県警内で「異例の措置」と受け止められたのは、沖国大事故での米軍の対応が念頭にあったからだった。

機体の検証には米軍の同意が必要だ。沖国大事故では沖縄県警の再三の要請にもかかわらず、米軍が拒否。機体の差し押さえも拒まれ、乗組員らの事情聴取もできないまま、県警は時効直前に航空危険行為処罰法違反容疑で、整備士4人を氏名不詳のまま書類送検した。

三浦事故では、神奈川県警の捜査は続く。ただ、現場検証こそ実現したものの「徹底した捜査ができなかった」(沖縄県警関係者)という沖国大事故と同じ様相を見せる。

当初、神奈川県警は事故機の差し押さえに必要な令状を取り、乗組員の事情聴取にも意欲を示した。だが、機体はすべて米軍が持ち帰り、事情聴取も要請しているが、協力は得られていない。日本の警察による真相究明は足踏み状態だ。

「ビス一つ触ることができないんです」。事故を目撃した男性(52)は現場を規制する警察官の漏らした一言が忘れられないといい、「日本で起きた事故なのにおかしい」と振り返る。

昨年6月、米軍は事故原因を人為的ミスとする調査結果を日本側に報告したが、「『容疑者』側の言い分とも言える。あくまで県警独自に結論を出す」と捜査関係者。ただ「わずか1時間半の現場検証では、得られた資料に限界がある。そもそもヘリには軍事機密が満載で、重要な機体内部は検証できていない」と別の捜査関係者は漏らす。

全ては米軍次第-。沖縄で捜査を阻んだ日米地位協定の「壁」が、今度は神奈川で立ちはだかる。物証も供述もない中、「県警が独自にできることは限られる。引き続き、米軍に協力を求めていくほかない」

◆損害賠償 日本も負担 三浦事故では米兵2人が重傷を負ったものの、民間人に被害はなかった。一方、電柱が傾き、道路と更地を隔てる柵が壊された。

地位協定は、米軍が公務中に損害を与えた際の賠償は、米国だけに責任がある場合は25%を、日米双方に責任があれば50%を日本が負担すると規定。防衛省によると、沖国大事故では同大や住民らに総額約2億7千万円が支払われ、日本は25%を負担した。

米国分の賠償金は、日本がいったん肩代わりして被害者側に支払うのが手続きだ。ただ、米国の支払いが滞るケースは多く、厚木基地をはじめとする全国の騒音訴訟では、判決確定後も日本が肩代わりしたままの賠償金は少なくとも100億円を超えるとみられる。

三浦市によると、三浦事故では昨年9月、柵を所有する市に対し、南関東防衛局から48万円余が支払われた。一方で、電柱を所有する東京電力は「相手があり、コメントは差し控える」とする。

同局は日本の負担率を25%とした上で、賠償先や金額、手続きの進捗(しんちょく)状況、肩代わり分を米国が日本に支払ったかについて、いずれも「賠償手続きを進めており、相手があることなので公表は差し控える」としている。

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【神奈川新聞】

 
 

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